殺せ。殺せ。殺せ。 俺の携帯の着声がなる。 俺はポケットに入れていた携帯を出し、 電話に出る。 「もしもし、仁君、今すぐ三丁目の信号まで来て。」 「すいません。誰ですか。」 電話の声にはかすかに聞き覚えはあるけど、誰か分からない。 携帯の画面には、見たこともない番号が出ていた。 「拓海、SAPの拓海だけど。」 意外だった。連絡するとは言っていたけど、 今まで何の連絡も来なかったから。 「拓海か。今日はしんどいから寝かせてくれ。」 今の気持ちを素直に言った。 今日は朝からヤクザに脅されるわ、 突然の来客が来るわで体力にはまだ余裕があるが、 精神は疲れきっていた。 すると、拓海は脅しにかかった。 「誰のおかげで力、制御できてるのかな。」 「わかったよ、行けば良いんだろ。」 といい携帯を切る。 そんなことを言われては、 こっちに反論できる言いわけはない。 しかたなく、ドアも開けず、アパートを離れ、 三丁目の信号に向かった。 今日は月も出ていない、 暗く静かな夜。 向っている途中、 タバコ屋のおばあちゃんが店の前で立っていた。 急いでいるが、おばあちゃんを無視して通れない。 いつもライターを貰っているし、声だけでもかけていくことにした。 「おばあちゃん、こんな時間にどうしたの。」 「仁ちゃん。実は孫のエリカが、 犬の散歩に行ったきり帰ってこないのよ。」 ・・・・・・・・エリカ・・・・・・・・。 頭の中に今日会った人の顔が浮かぶ。 でもすぐにその予想を消す。 まさかこんな良い人の遺伝子を持った子が、 あんな風になるとは思えなかったから。 「俺これから用事あるけど、 もし、見かけたら帰るように言っとくから。」 「ありがとう。今度来た時はサービスさせてもらうよ。」 「じゃね。きっとその内、帰ってくるよ。」 なんて証拠にもないことを言って別れる。 だいたい、俺はおばあちゃんの孫の顔も知らないんだから。 三丁目の交差点に着く。 辺りを見回すと、 交差点の一角の壁にもたれながら、 タバコを吸う拓海がいた。 拓海の足元には数十本もの、タバコの吸殻が落ちていた。 だいぶ長い間、ここにいたのが、 手にとるように分かった。 拓海に駆け寄り話しかける。 「どーも。こんばんわ。 今日はどうして呼び出されたんですか。」 悪態つきながら聞く。 すると拓海は後ろの道を親指で指差し、 タバコを吸い続ける。一言もしゃべらず。 俺は仕方なく、 拓海が指差した方を見ると、 そこには・・・・・・・・・・・・・ 人をナイフで滅多刺しにする人物がいた。 暗くて被害者も加害者の顔も見えない。 夜、その道は街頭もなく、 静かで何も聞こえない。 ただ聞こえるのはナイフで、 人を刺す鈍い音だけ、それと犬の鳴き声。 ・・・・・・・・・・・犬・・・・・・・・・。 そういえば、おばあちゃんの孫は 犬の散歩に行ったきり帰ってきてない。 もしかして・・・・・・・・・。 最悪の状況が、 その現場を見ただけで頭によぎる。 拓海を睨み、胸倉を掴む。 「何で助けないんだよ。」 とうまわしに聞かず、 そのままを聞いた。 「これは君の仕事だからだ。」 拓海は俺の腕を振り払い、 タバコを落とし、足で火を消した。 その言い方は電話で話していた時の口調と 明らかに違っていた。 「悪いが自分の仕事以外は一切しない。 それに俺が行けば、被害者は助かるが加害者は死ぬ。」 「それでいいじゃねぇかよ。人一人の命が助かるんだぞ。」 「じゃ、君が行って助けてきなよ。 彼の顔を見ても助けられるなら。」 「どうゆう意味だよ。」 「行けば分かる。今回の仕事は彼を殺すこと。 それが君の仕事だ。覚悟しなよ。」 俺は意味が分からなかった。 だけど一つ分かることがある。 それは、人が救えるということ。 正直、誰が死のうと関係ないが、 もし、あのおばあちゃんの孫だとしたら、 絶対に助けたい。 それはいつもライターを貰っているとかじゃなくて、 身内のいない俺にとっておばあちゃんは 俺のおばあちゃんみたいな存在だから。 だから、おばあちゃんが悲しむような顔は見たくない。 俺は走り、その加害者に向っていった。 後ろで、「Good Lucy」なんて言葉が聞こえたが 無視して走る。 加害者の近くまで行き、声をかけた。 「やめろ。殺すぞ。」 武器も持たない俺が人を殺せるわけもないが、 口からは勝手にそんな言葉が出ていた。 加害者は手を止め俺の方を向く。 その間に犬はどこかに行ってしまった。 そんな時、雲が晴れ、満月の月が顔を出し、 地上に月明かりをふらしてくれた。 顔が見える。 その時、ようやく拓海の言葉が分かり、 拓海に感謝した。 拓海は俺にチャンスをくれたのだ。 別れの挨拶をするための。 月明かりに照らされたその加害者は ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クリスだった。 クリスは返り血を浴びたその格好で 表情ひとつ変えず、俺を見ている。 俺もクリスにかける言葉一つ浮かんでこない。 でも一つだけ聞かなきゃならないことがある。 「クリス、オマエ昨日の夜もこんなことしていたのか。」 それは昨日から疑問に思っていたこと。 昼はあまりに人数が多く、楽しくて忘れていたが、今思い出した。 クリスは、普段と変わらない口調で、 「あぁ、そうだ。だからなんだ。」 頭にきた。そのそっけのない返事にも、 人を殺していたと言うのに昼間あんなに笑っていたことも。 「そうか。ならもう聞くことはない。」 俺は、体を軽く落とし、戦う体制をとる。 すると、クリスは、 「仁と友成は殺さないつもりだったが、 オマエがやる気なら仕方ない。」 とクリスも持っていた血のついたナイフを構える。 すると後ろから何かが飛んできた。 速くて何が飛んできたのか分からないが、 俺のバックにいるのはあいつだけ。 飛ばしたのは何であれ、 アイツなりの最低限の援護だろう。 それが俺の横を通り抜けるのと同時に、 俺は走り出した。 それは確実にクリスの心臓を狙って放たれていた。 クリスは避けることが出来ず紙一重で、ナイフで弾く。 バキィ。 俺はその隙に、クリスに飛び蹴りをかます。 クリス対抗できずにそのまま後ろに、 仰向けになって倒れた。 俺はその間に被害者の元に走る。 顔を見た瞬間、思い描いた中で最悪のものだった。 おばあちゃんの孫、エリカ。 それは今日、昼、俺の家に遊びに来ていた南浦エリカだった。 頭の中は真っ白になり、 小さい頃の限界を迎えたときの感じがした。 クリスはゆっくりと立ち上がる。 クリスがナイフに眼をやると半分がなくなっていた。 つまり拓海の放った一撃でクリスのナイフは、 砕けてしまったのだ。 俺はクリスを睨み、 「どうして彼女を殺した。」 と聞くとクリスの口から、 「この世界に必要ないからだ。」 そんな答えが返ってきた。 もう遊んでいた時の 俺の知ってるクリスの言葉は聞けなかった。 「お前は、オマエ自身はこの世界に必要なのか。」 クリスの言った言葉を問いにして返す。 「それを決めるのは俺ではない。 周りのいる人間だろう。」 クリス、オマエもまだ周りなんて気にしてるのか。 心の中で問う。本人には聞かない。 どんな答えが返ってくのか、聞くのが怖かったから。 「じゃ、俺が判断してやる。今のお前はこの世界に必要じゃない。」 「そうか。なら殺してみろ。」 二人の間に張り詰めた空気が流れる。 「クリス、オマエ能力って知っているか。」 最後の問い。最後の情け。 友達としての最後の願い。 「あぁ、知っている。」 それは、あっさり砕かれた。 「知ってるてことは、オマエも持ってるのか。」 「あぁ。それを聞くと言うことはお前もだろ仁。」 「あぁ。ナイフも使えないだろう。 最後はそれで決めるしかないだろう。」 「異論はない。」 クリスが言い終わると二人同時に走り、 手を伸ばす。 二人とも相手の手を避ける。 俺は振り向き、触れるのではなく、 クリスの顔を思いっきり殴った。 クリスは手を伸ばしたので、 防ぐことが出来なかった。 クリスは倒れず持ちこたえ、 俺に手をまた伸ばす。 俺はそれをまたかわし、 一発殴る。 クリスは倒れ、口から血を吐く。 なぜ、クリスは俺に触れられないのか。 答えは簡単。 俺はクリスの手にだけに意識を集中さしているから。 クリスは俺を殴ろうとも蹴ろうともしない。 それに対して俺は相手に触れることを 目的としていないから。 つまり俺は能力を使おうとしていない。 制御して使っていない。 こいつをすぐに倒すことは簡単ではないがすぐできる。 でも、俺はこいつにこういうことをした罪の重さを分かってほしかった。 だから、何回やろうと同じことだ。 クリスが触れてこようとしたら、 その手を避け、がら空きの体にパンチを一発入れる。 俺はクリスの上にまたがり、足でひじの部分を踏み、 クリスの顔を殴る。 一撃。 一撃。 また一撃と渾身の力を込めて クリスの顔を殴る。 クリスの口から血がもれ、 地面へと落ちていく。 俺の視界にはそんなものは、 写っていなかった。 ただ、一心不乱にクリスを殴っていた。 何回目だろう。 クリスは腹筋を使い、足で俺の背中を蹴り、 頭の上に飛ばした。 俺はクリスの頭の上を転がるが、 すぐに立ち上がり、クリスを睨む。 クリスは徐々に体を起こし、 俺の方に体を向け、睨んでいる。 クリスはまた無謀にも俺に突っ込んでくる。 俺は一歩先を読み、体を動かし、避けようとした瞬間、 クリスは、一歩引き、俺の体に触れた。 触れたと言うよりそれは正掌。 俺の腹に手を押し込む。 クリスは俺のさらに一歩先を読んでいた。 俺は吹っ飛び、壁に叩きつけられ、 地面に倒れる。 俺の体からは大量の血が出る。 切られてもいないのに、手首と足首、 首ついでに口の中も切られている。 一気に体から血が抜けていく。 もうその一撃で勝敗は決まった。 俺の手足の感覚が薄いし、頭にだって血がいかない。 クリスはゆっくりと俺に歩み寄ってくる。 「俺の能力は首斬。俺がナイフを持っていようが 持ってなかろうが関係ない。 そいつの手首、足首、首、舌を斬ることが出来る。」 「わざわざ手の内を教えてくれて、ありがとう。」 「友達としての最後の情けだ。 仁、今まで楽しかったよ。」 その一瞬の微笑みは、口からは血が流れているものの、 俺が知っているクリスの笑顔だった。 俺はその笑顔を見た瞬間、 俺がこいつに殺されてはいけないと思った。 なぜなら友成の顔が、 動かない俺の頭によぎったから。 俺はかがみ込むクリスを感覚がほとんどない足で、 蹴り飛ばし、距離をとらせる。 俺はその間に、壁にもたれながらも、 何とか立つことが出来た。 でも、立っている感覚はもうすでにない。 きっと壁がなかったら、立つことも出来なかっただろう。 クリスもすぐに立ち上がり、 俺と向き合う。 俺にはもうクリスを殴る力も蹴る力も ましてやクリスの手を避けることすらもできない。 俺に残されているのは、 触れれば、それで勝てるこの手だけ。 だが、その頼みの手も感覚が微かにあるだけ。 触れれば勝てるこの手があっても相手にたどり着くまでの足が必要だ。 しかし足にはもう感覚がない。なんとかして動かすことができても一歩。 その一歩とこの手であいつを倒すことそれが俺が勝つための条件。 クリスは俺の状況も知らないで、 普通に向かってきやがる。 俺はもう働くことを辞めた頭をフル回転で動かし、 クリスの動きを読む。 答えは意外と簡単に出ってしまった。 クリスが手を伸ばし触れてくるなら、それを受けてその後に俺は触れればいい。 そうなれば、俺も生きてはいないだろうが、 こいつに勝つにはそれしかない。 心の中で友成に謝った。 十年前、お前は俺を助けるためにあんな事までしてくれたのに、 死ぬときがこんなにあっさりしていたら・・・・・。 クリスは一言、最後の俺に向かって、 「すまんな。仁。」 「何に対して誤ってんだ。 俺を殺すことかそれとも日曜日に俺が遊びにいけないことか。」 「両方だよ。」 と勢いよく俺の体めがけて、 手を伸ばしてくる。 俺の考えていてクリスの行動に間違えはなかった。 間違えがあったとしたら、俺自体の行動だ。 俺はクリスの手が当たる前に、足の力を抜き、 姿勢をクリスの膝ぐらいに下げ、足を伸ばし、 クリスの足めがけて、おもいっきり蹴る。 それでクリスの足を払い、クリスが倒れたところに心臓めがけ 手を伸ばした時、クリスが口を開いた。 「友成に日曜はいけないと伝えておいてくれ。」 「わかった。」 クリスは俺の能力を知らないがたぶん死ねこと理解したらしい。 俺はクリスの心臓に手を押し当てた。 それで、もう勝負はついた。 クリスはそのまま動かず、気を失っていた。 俺の中にはいつも通り、 クリスの死ぬ前、つまり死前が見えた。 クリスはこの路地に倒れている。 どうやら意識がないらしい。 そして、そこにはSAPのローブを着た、 後ろ姿の誰かが立っていた。 そいつは、刀のような長い刃物を振りかざし、 クリスを切り捨てた。 そして、俺の頭の中に流れる映像はそこで終わった。 その映像が俺に何を告げているか、 すぐさま、理解できた。 クリスを殺すのは、俺ではないということ。 ましてや、拓海でもない。 拓海はSAPのローブは着てないし、 それに、あんな長い刀も持っていない。 きっとSAPの誰かが来て殺してしまうんだろう。 だからといって、クリスを助けようとも思わなかった。 友成には悪いが、自分を殺そうとした人間を助けたいとは思わない。 それに、俺にはそんな余力すら残っていない。 自分の足でアパートに帰れるかどかすら不安だ。 でもどんなことがあっても、クリスの最後の頼みだけは、 必ず叶えてやろうと思った。 俺は手で這いながら、南浦の元に行く。 いくら俺でも、もう死んでいることはわかっている。 でも、もし、まだ助かるなら助けてやりたい。 夜遅くまで孫を待っているおばあちゃんのためにも。 俺は南浦に能力を使う。 俺の能力は死前。 生きている人間の死ぬ前の状況を知ることができる。 ならもし、南浦に手を当て、南浦の死ぬ状況が見えれば、 可能性は少ないが助けることができるかもしれない。 南浦に手を伸ばし、体に触れる。 だが、何も見えない。 何の映像も流れてこない。 つまりそれが意味していることは、 もう彼女は死んでいて、助けようがないということ。 俺は南浦から、手を離し、 感覚の少ない手を合わせる。 それから俺は壁を支えにしながら立ち上がり、 その場に背を向け拓海の元に歩いていった。 拓海は俺がこっちに歩いてくるのを待っていたのか、 壁にもたれながら、タバコを吸い、こっちを見ていた。 拓海の元に壁をつたいながら行く。 拓海は俺に、 「残酷だね。」 と声をかける。 こいつは俺にどういう心境でその言葉をかけたのか、 どういう意味で俺にその言葉をかけたのか知らないが 今の俺の回らない頭では俺を挑発してるようにしか聞こえなかった。 俺は拓海を睨む。 拓海は俺の顔を見て、 俺の状況がどういう状況を理解したのか 「冗談。お疲れ様。」 と優しく微笑んだ。 俺は睨むのを止め、拓海にクリスと向き合うチャンスをくれたことに礼を言った。 「拓海、ありがとう。」 「悔いは残らなかった。」 「あぁ、悔いはない。後はお前の好きにやれよ。」 「悪いけど、何もしないよ。俺は、 「自分の仕事以外はしない。」だろ。」 途中から拓海の言葉を真似した。 拓海はびっくりした顔をした後、笑い 「あぁ、そうだ。」 と言った。 拓海が自分の仕事以外のことはしないこと分かっていたが、 今の俺ではできないことを拓海に頼んだ。 「拓海、頼みがある。」 「何。」 「犬だけでも、探し出して飼い主のところに返してやってくれ。」 「いいよ。今の仁君にはやらせたくてもできないからね。」 少し拓海の言葉には引っかかるが、 やってくれるというんだから、文句は言えない。 「じゃ、頼んだ。俺は一足早く家にかえらさせてもらうよ。」 「じゃ、また。」 俺は拓海に別れを告げ、歩き出した。 拓海も、犬を探しに行くのか、足音がとうざかって行く。 俺は壁をつたいながら、 アパートに向かって歩く。 足首からは歩くたび血が流れ出ていた。 手首の血は、固まってもう止まっているが、 足首の血は、固まるどころか止まること知らない。 さっきから眼がかすみ、意識が朦朧としている。 でも、歩く。 こんなとこで倒れるわけにはいかない。 早く傷の手当てをして、ふかふかの布団で寝ないと。 そんな俺の気持ちとは反対に俺の体は限界を迎え、 その場に倒れてしまった。
ピンポーン ピンポーン 呼び鈴の音で眼が覚めた。 覚めたのは意識だけ。眼は瞑ったまんま。 体も頭も動きそうにない。 ついでに言うと、手と足の感覚がまるっきりない。 手と足があるのかすら分からない。 そんな俺の代わり、誰かが、 「はーい。」 なんて明るい声を出しながらでてくれた。 少なくとも大家さんの声でないことはわかった。 玄関から、 「仁君はいる。」 なんて言う明るい拓海の声が聞こえた。 誰かは、 「今、寝てて起きないんですよ。」 と俺の代弁してくれている。 拓海はその誰かを知っているのか気にもしていない声で、 「昨日はちょっとたいへんな仕事をしてもらったからね。」 拓海は昨日のことをめちゃくちゃ軽い感じで話す。 もし、俺が動けたら、今すぐ飛び起き、 拓海を一発殴りに行っていただろう。 でもそれもできないくらい、 体は動かなかった。 「そうなんですか。それじゃ、仕方ないですね。」 「それじゃ、これ渡しておいて。 それと説明書を必ず読めと伝えておいてくれますか。」 「はい。分かりました。」 俺の代弁者は勝手に拓海から何かを受け取る。 「じゃ、また。SAPの集会の時にでも。」 「はい。また。」 そう言い、拓海は帰り、 誰かは家の中に戻ってきた。 ・・・・・・SAPの・・・集会。 俺は、俺の家に誰がいようとかまわないが、 なぜ、俺の家にいるのかが分からなかった。 しかもSAPの人間といえば、 確かみんな何かしら能力を持った人間。 そんなやつがなぜ俺の家にいるのか 本当に分からなかった。 しかも、今頃気づいたが、女の子の声だ。 俺には彼女も女の子の友達もいない。 だから、本当にその人が家にいる理由が分からなかった。 眼を開けて、確認すれば済む話だが、 眼を開けることもできないくらいだるい。 俺はそんなことを気にするのを止め、 また眠りについた。
ようやくちゃんと眼が覚めた。 頭もちゃんと動いている。 俺は顔だけを動かし、時計を見た。 時計は昼の1時をさしていた。 布団から上半身だけをゆっくりと起こす。 両手を眼の前に持ってきて、握る。 昨日ぜんぜん感じなかった手の感覚は見事に戻っていた。 しかも手首の傷の辺りはしっかりと包帯で巻かれていた。 布団をめくり、足の方も見てみる。 すると、足首にも包帯が巻かれていた。 足をゆっくり動かす。 足にもちゃんと感覚が戻っていた。 感覚の戻った手で、首にも触れてみるが、 やはり、包帯が巻かれていた。 辺りを見渡しても誰もいない。 誰もいないのに傷の治療がされていた。 昨日のことをはっきりとは、 覚えていないが、家まで帰れなかったことだけは、 確かに覚えている。 俺はとりあえず歩けるか試してみた。 まず、布団の上にゆっくりと立ってみる。 壁を使わずにいつも通り立つことができた。 次は普通に歩けるか試してみた。 台所に向かって歩く。 以前のように普通に歩けた。 だが少しだけ足首が痛んだ。 当然といえば当然。 昨日の今日で完全に直るわけもない。 手首にも軽くだが痛みはあった。 俺は居間に戻り、布団の上に座り、 少しの間、ぼーっとする。 すると、見覚えのないダンボールが 机の上に置いてあった。 ダンボールを手でこじ開け中身を見ると、 そこには、四本の綺麗なナイフと二本の鋭いダガーがあった。 そのほかには、説明書とナイフとダガーを 収めるためのベルトのようなものが入っていた。 俺は関心もなかったのでダンボールに、 それらをまたしまい直した。 特に何もすることがない。 とりあえず布団とかたずける事にした。 押入れを開け、布団をたたみ、中に入れる。 別に腹も減ってなかったので、 何も食べないでいた。 床に座り、タバコに火を付け、 のんびりしていると玄関のドアが開く音が聞こえた。 誰かは勝手に俺の家に入ってきた。 その人物は七倉だった。 七倉は俺を見るなり、 「大丈夫。」 と駆け寄ってきた。 「大丈夫だけど、なんで七倉が俺の家に勝手に入って来てんの。」 と純粋な疑問をぶつけた。 「昨日の夜、ご飯を買いに行こうと思って道を歩いてたら、 道で倒れてる鏡埼くんがいてそれを私が助けて看病してたから。」 と答えになっているのかいないのか分からない返答をしてくる。 「ところで七倉、学校はどうしたんだ。」 「休んだ。」 「優等生のお前が。」 本当は優等生かどうかは知らないが、 遊びに来たときに言っていたときのことを思い出し言ってみた。 「悪いけど、優等生やってるのは学校だけ、 いつも優等生やってたら疲れるから。」 「そうなんですか。」 「うん。」 とわけの分からない相槌をうってくる。 なんだかいまだに状況は分からないが、 看病していてくれていたのは確かだろう。 言うのが遅れたが礼だけはしといた。 「看病してくれてありがとな。」 「いいよ。別に。」 ぜんぜん気にしていないのか笑顔で答え、 台所に行く。 台所に行き、何か買ってきたのか、 ビニール袋からいろいろなもんを出し、 台所に並べていく。 その一部を抱え、居間の机の上に置く。 「これは何ですか。」 「鏡埼くんの治療セット。」 と言い七倉はまた台所に戻っていく。 今度はいきなり、お湯を沸かし始めた。 心配になり、俺も台所に行った。 俺は、七倉の行動が理解できなかった。 「あの、何をなさってるんですか。」 「お昼ごはんつくろうと思って。」 「そんなことまでしなくていいから。 家に帰ったほうがいいんじゃない。」 俺は七倉が持っていたの奪い取り、 帰るように促した。 七倉は俺の手からそれを奪い返し、 「いいから。いいから。気にしないで。 それに私、聞きたいことがあるの。」 急に七倉の顔が真剣になった。 俺は、七倉から顔をそむけ、何も言わず居間に戻る。 聞きたいことそれは、 絶対昨日のことだろう。 それはそうだ。手足から血を流し、 道に倒れていたんだから。 俺はタバコを吸いながら、 台所でてきぱき動く七倉を見つめていた。 すると七倉は器を二つ持ち、 居間に戻ってきた。七倉は、 「はい。お昼ごはん。」 と言ってものの十分程度できつねうどんを作ってくれた。 二人で、 「「いただきます。」」 と言い、無言でうどんをすする。 七倉は話があると言っておきながら、いっこうに話ださない。 俺は痺れをきらし、 七倉にこっちから聞いてみた。 「話って何だよ。」 「実はここに引っ越したいんだけど部屋空いてる。」 なんていきなりどうでもいいこと聞いてきた。 俺はまわりくどく言うつもりだろうと思い、聞いた。 「話って本当にそれだけか。」 七倉はびっくりした顔の後、 疑問そうな顔をした。 「それだけだけど。他に何か聞いてほしいことでもあるの。」 と痛いところ聞いてくる。 俺は正直に答えた。 「実は昨日のことを聞かれるんじゃないかと思っていたから。」 「それは聞きたいけど。人にはそれぞれプライバシーがあるから。」 と聞きたがっているのが、 俺でもわかるような表情をする。 俺はあえてそれを無視した。 「そうか。なら部屋を貸してやるよ、一つ空いてる部屋があるし。」 「本当にいいの。その・・・引っ越す理由とか聞かないの。」 立場が一気に逆転した。七倉も俺と同じだ。 あんまり話したくないんだろう。 「人にはそれぞれプライバシーがあるんだろ。」 「ありがとう。」 「その代わり、狭くても文句言うなよ。」 「うん。」 うどんをすする手を止め、 それからいろいろとこのアパートの構造について説明した。 「今は大家さんがいないから、仮登録しかできないけど良いか。」 「借りれるならそれでも良いよ。」 「じゃ、明日にでも準備しとくよ。」 「わかった。」 そう言い二人でまたうどんをすする。 食い終わった後、七倉は俺の分までかたずけをして、 自分の家に帰っていった。 見送った後でナイフとかのことを思い出したが、 その時にはもうどうでもよくなっていた。 七倉が帰った後、一人部屋でタバコを吸いながら 昨日のことを思い出していた。 あの後、クリスがどうなったのか、 南浦の死体はおばあちゃんのところに帰ったのか。 いろんなことが頭によぎるが、 一番つらいのは、おばあちゃんだろう。 おばあちゃんの悲しむ顔を思い浮かべると 南浦を救えなかったことに苛立ちを感じた。 俺はとりあえず過ぎたことを考えるのは止めにした。 残酷かもしれないが、過ぎてしまったことはもう変えられない。 俺は夜までの時間、 内職をして暇を潰すことにした。
昼から続けていた内職をしていると、 殺せ、殺せ、殺せ 俺の携帯がなった。 俺は内職を止め、携帯に出る 「もしもし。」 と電話に出ると拓海からだった。 「もしもし、体はどう。」 なんて心にもない心配を 電話の向こうでしてくれている。 それは拓海の声があまりにも いい加減だったから。 「大丈夫だけど、今日も仕事か。」 拓海からの電話。 それは仕事以外に考えられなかった。 「今日は、SAPの集会があるんだけど、 ぜひ君にも出てもらいたいだ。」 意外だった。 拓海が仕事以外に連絡をくれることが。 「わかった、何時にどこに行けばいい。」 「迎えをやるからその人と一緒に来て。」 「わかった。」 といい電話を切る。 迎えに来るのが誰なのかも 時間も聞かないまま電話を切ってしまった。 何とかなる。と自分に言い、 内職を再開した。 何分経っただろか、 それは、俺の予想を裏切る早さで誰かが来た。 ピンポーン 呼び鈴が鳴る。 内職していた手を止め、玄関に向かう。 ドアを開け出て行くと そこには意外な人物がSAPのローブを着て立っていた。 そこにいたのは、間違いなく 俺に包丁を刺した桐谷君が立っていた。 少しの間、二人ともしゃべらず、 睨み合っていた。 俺はその雰囲気に耐え切れず 先に口を開ける。 「体の調子はどう。」 朝の拓海のように 心にもないことを聞いてみた。 「ナイフとダガーそれとローブを着て、ついて来て。」 桐谷君は俺のことを 完全に無視して要件だけ伝える。 「わかった。」 俺は言われるがままに着替え、何故、桐谷君がダガーとナイフのことを 知っているのか疑問に思いながら、 ナイフとダガーを専用のベルトに入れ、 玄関に向かう。 ドアを開けるとさっきの状態のまま 桐谷君は俺のことを待っていてくれた。 桐谷君は何も言わず歩き出した。 俺は部屋に鍵を閉め後をついて歩いた。 二十分ぐらい歩き、前に来た 事務所のような建物の中に入っていく。 その間、桐谷君とは一切しゃべっていない。 階段を上がり、 広間のようなところに出ると、 SAPのローブを着た人間が十人ぐらいいた。 そこで、俺の名前を呼ぶ 女の子の声が聞こえた。 「鏡崎くん。」 第一章 完 もしよければ投票してください。