○○○○○




「鏡崎くん。」

この異様な空気を振り払うかのように
その声が聞こえた。

黒いローブ着た集団の中から二人が近づいてくる。
向こうが俺に気づくのは当たり前。
だって、俺だけフードを被らずに突っ立ているから。

その二人はちゃんとローブを着てフードも被っているので、誰だかわからない。
その二人は俺の前まできて、

「なんでこんなところにいるの。」

なんて聞いてくる。

「悪いけど、アンタたち誰。
女だって事はわかるんだけど。」

それは、声だけの判断。
耳だけの判別。

すると二人はゆっくりとフードをとる。
そこにはほんとに意外で、今会いたくない人間のうちの二人がいた。

七倉 光と桑本 愛。

「えぇ、なんで二人が此処にいるんだ。」

答えは聞かなくてもわかっていた。
それは、二人が能力を持っているから。

でも、あまりにも意外で言葉の方が先に出てしまった。

「それこっちが聞きたいんだけど。」

桑本が機嫌悪そうに聞く。

「それは、俺が能力を持っているからだと思う。
もしかして、七倉も桑本も能力持ってるの。」

「もちろん。でなきゃこんなところにいないわよ。」

桑本は当たり前のように答える。

それは、当然だ。
俺だってこんな薄気味悪いところにはいたくない。
でもしかたがない。能力を持っているから。

「そろそろ、始まる。
鏡崎くんもちゃんとフード被って。」

七倉は周りの雰囲気を感じ取り、
俺に、フードを被るように促した。

仕方なくフードを被り、
前を見つめる。

前には、三人の俺らとは違う灰色のローブを着たヤツがいた。
左のヤツが口を開く。

「久しぶりの再会。みんなよく集まってくれた。
話を長くする気はない。用件を率直に伝える。
此処最近で、SAPに新人が入った。
ここで、新たなペアを組み、お互いを監視し、共に行動してもらいたい。」

みんなその言葉を聞いただけで、
反論などが無く素直にペアを組んでいく。

俺はというと隅っこで、
座り込み、一人はみるのを待っていた。

すると、

「鏡崎くん一緒に組まない。」

と七倉が誘ってきた。
もちもん、フードを被っていて顔は見えないが、
声でわかった。

「いいけど、俺、足引っ張るよ。新人だし。」

「私だって、ベテランじゃないから。素人同然なんだから。」

七倉は俺と組みたいのか、
あっさりとは諦めてくれない。

ここで少し話題をづらした。

「入ったのって最近なの。」

「半年前かな。」

「へぇー。七倉も新人じゃん。」

「そうだね。」

すると、いつの間にか、
周りは全員、ペアを組み終わっていた。

「仕方ない。ペア組むか。」

「うん。」

といいこうして俺は七倉と組むことになった。
じゃ、アイツは・・・・・・・

「七倉、桑本はどうしたんだよ。」

「愛ならもうとっくに違う人と組んでるよ。
強そうな人と組むんだって。」

「なんかアイツらしいな。」

桑本とはそんなに仲良くもないし、
しゃべったことも少ないが、なんとなくあいつの性格はわかっていた。

今度は前の三人の右のやつが口を開いた。

「これからは、その二人で任務をしてもらう。」

次は左のヤツ。

「リストを配るからみんなには、
そこに載っている人間すべてを殺してもらう。」

前の方から順番に三枚の紙が回ってきた。

「だが一日十人までだ。
それ以外の殺しは一切認めない。
もし殺せば、そいつ以外のここにいる全員でそいつを消す。以上。」

そう言い三人は奥の部屋へと消えていった。

リストを見る。
そこには、ざっと数えただけでも二十人は超える人間の数が載っていた。

「こんなにいるのかよ。」

ぼそっと漏らすと
横からふざけた言葉が聞こえた。

「少ないぐらいだと思うけど。」

七倉は普通の顔でリストを眺めながら言う。
俺は七倉から眼を逸らし見ることもせず聞いた。

「オマエ、一体、この半年でどれだけの人間を殺してきたんだ。」

「正確に言うと、102人。
でもどうして、そんなこと聞くの。」

不思議そうに聞いてくる。
俺はそれを聞いてくる七倉の神経がわからなかった。

「お前は、人を殺すことに抵抗はないのか。」

つい聞いてしまった。
自分もこれから嫌でもやってしまい、
なくしていくことを。

「これだけは言っておくけど。
そんな感情いらないよ。そんなのは持つだけ無駄よ。」

言っていることは優しさの微塵も感じられないのに、
口調だけは、どこか優しい。

「なら、何人でもお前は人を殺していくのか。」

「うん。それが任務だし。目的もあるし。
私はそのためなら人を何人だって殺す。」

昨日の俺の状況が頭に一瞬、蘇る。
あの状況になったら七倉は・・・・。

「友達でも殺すか。」

聞いてみる。
自分の知っているヤツでも殺るのかを。

「目的のためなら。容赦なく。」

その答えはあっさりしていた。
アイツはあの状況ならたぶんクリスを殺している。

確実に。


「俺でも殺すか。」

「例外はないわ。」

その時の眼は真剣で、
一切の迷いなんてなかった。

「そうか。」

俺は少し心の中で七倉に距離をとった。

俺は自分を殺す人間は決して信用しない。
十年前に自分の中にそうルール(決まり)を作ったから。
どんな人間だろうが、これに例外はない。

ふっと気がついて、
辺りを見るとそこにいるのは、七倉と俺の二人だけだった。

みんな、俺らが話している間に
帰ったらしい。

お互いに声もかけず、
俺たちもそこを後にした。

外に出る間、
靴音だけが響いていた。

外に出た。
二人とも帰る方向が同じなため、
横に並んで一緒に帰っているが、一言もしゃべらない。

そこでも、聞こえるのは足音だけだった。

俺は七倉にしゃべることはないし、
七倉も俺にしゃべることはないんだろう。

月明かりが照らしている道を
二人して無言で帰る。

アパートに着いた。

七倉と歩いて帰って来た時間が、
とてつもないぐらい長く感じた。

別れも言わず、七倉は帰っていった。
俺も自分の部屋に入る。

布団も引かず、
居間の地べたに倒れこんだ。

七倉の言葉が蘇ってくる。
「容赦なく殺す。」
「例外はない。」
一言一言が俺の頭を回り続ける。

俺はそんな言葉を振り払い、
何も考えず眠りに付いた。







○○○○○







殺せ、殺せ、殺せ

殺せ、殺せ、殺せ

殺せ、殺せ、殺せ

携帯がポケットの中でなり続ける。

殺せ、殺せ、殺せ

殺せ、殺せ、殺せ

殺せ、殺せ、殺せ

まだなり続ける。

仕方なく少しだけ瞼を開き、
手をポケットの中に突っ込み携帯をとる。

「もしもし。誰。」

「七倉だけど。」

そう聞こえた瞬間、電話を切った。
少し間をおき、

殺せ、殺せ、殺せ

また携帯がなる。

俺は眠たい体を動かす。

携帯の受話器を上げている部分を押すが、
押しただけで、そのまま放置した。

話の内容もしゃべり声も聞こえない。

俺は眠たくて、電話に出てる場合じゃない。
誰にも邪魔されずに寝たい。

それは電話に出たくないから。

本当は七倉とは話したくなかった。
自分の目的のためなら友達も殺すと言ったアイツとは。

七倉とは性格が合わない。
アイツはそれが自分のルール(決まり)なんだろうけど、
そのルール自体が俺とは合わない。

携帯からは小さく「聞いてる。」
なんて聞こえてくる。

携帯の向こうでは、
きっと大声でも出しているんだろうなと
思いながらその声を無視して眼を瞑る。

こんなに体と頭が休みたがっているのに、
簡単に寝ることが出来ない。

無視しきれないのは電話の向こうの相手に少しだけでも
罪悪感を感じているから。

そのことが気になり寝れないんだろう。
だるい体を起こし、眼を半分開け、携帯を手にとる。

「もしもし。」

仕方なく電話に出ることにした。

「やっと、ちゃんと出てくれた。」

「七倉、悪いんだけど、オマエとは話をしたくない。
用件だけ伝えてくれ。」

「私も嫌われ者か。いいよ、用件だけ言うね。
エリカが死んだの。今日はお通夜があるから来てほしいの。」

「そうか。分かった行くよ。じゃな。」

電話を切り終えた時には体はおろか頭まで
眠気がなくなっていた。

罪悪感はなくなったはずなのに。

それはきっと南浦の名前が出ただけで、
頭や体があの夜のことを思い出すから。

忘れようとしても頭から消えることのない
最悪な思い出。

いつになろうと消えることはない。

俺は起きたついでに、
朝昼兼用の飯を食べることにした。

台所に行き、カップラーメンを出し、
お湯を沸かし、沸いたお湯をいれ、二分待つ。

台所の地べたに座り、固めの麺をすする。

食い終った容器を台所の流しに置き、
居間の机に置きっぱなしのタバコを吸いに行く。

部屋の壁にもたれかかり、
ボーっとしながらタバコを吸う。

その間ずっと考えていた。
頭から離れないあの夜のことを。

俺がもう少し急いでいったら、
南浦を助けられたかもしれない・・・・・・

拓海がクリスを殺してくれていたなら、
南浦は死なずにすんだかもしれない・・・・・・

その一日前にクリスを見かけたときに声をかけて止めてなら、
こんな思いをしなくてよかったかもしれない・・・・・・

すべては・・・・・・・・・
自分に都合の良い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・思い。

あれは拓海が呼ぶのが遅かったから。

南浦が犬の散歩なんかに行くから。

クリスがあんな考えを持っていたから。

すべては・・・・・・・・・・・・
自分に都合の良い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言い訳。

そんな言葉が頭の中をいいように回る。
自分は決して悪くない。何も悪いことはしていない。

その言葉が浮かんだ瞬間、
自分の器の小ささに気づいた。

俺はこんなことを思ってどうしたい。
俺はこんな言い訳を誰に聞いてもらいたい。

自分の中で自問が続く。

そんな時、タバコの灰が、
足の上に落ち、我に返る。

俺は、タバコの火を消し、立ち上がり、
大家さんの家に黒のスーツを取りに行った。

取りに行く間、俺は死なせてしまった人の顔を見て、
自分がすべて背負っていかなくちゃいけないと自分に言い聞かせた。

準備を整え少し早めに家から出でいった。






○○○○○






黒のスーツを着てタバコ屋に向かう。
今までタバコ屋に行っていた気分とはまるで違う。

果てし無く重い。

心の整理は付いていたはずなのにどこか重い。
前を見て歩けないぐらい。

足が自然と止まる。

近くにタバコ屋がある。
前を向いてはいないが、道路の色、
マンホールの数で何となくわかった。

いつもは何気に見ている道路やマンホールでも
記憶の片隅には残っている。

なんか逃げ出したい。

俺は何もしていないのに。
何もしていない、何も出来なかったからこそ逃げ出したい。

そんな気持ちが心を重くしていた。

何の決意もしないままタバコ屋に足を運んだ。

タバコ屋の壁には白と黒の布が貼られており、
中からはお通夜の支度を整える音で賑わっていた。

タバコ屋に入っていく。
祭壇がもう用意されており、
祭壇には南浦の笑顔の写真が飾られていた。

おばあちゃんがその祭壇の前で声も出さず、
ただひたすらに涙を流していた。

かける言葉は何もない。
むしろかけられる言葉がない。

俺はそんな状況を入口から見つめていた。

奥から桑本が出てきた。

「来てたの。」

「あぁ。」

二人の言葉も短い。
交わす言葉はそれぐらいしかないから。

「悪いけど、奥の部屋でお通夜の準備してるから手伝ってくれない。」

「わかった。」

頼まれたことを無条件で受け入れる。
俺の頭はこの時すでに動かなくなっていた。

俺は桑本に連れられ、奥の部屋に向かう。
奥の部屋には、知らない人が五人とそれを手伝う友成と七倉の姿があった。

部屋に入ると、知らない人たちが俺に

「来てくれてありがとうな、エリカも喜んでるわ。」

と声をかける。
俺はそれに軽い会釈でしか答えることが出来なかった。

友成と七倉の元に向かう。

「・・・・・・・・・・仁・・・・・。これ運ぶの手伝ってくれないか。」

いつもと違う呼びかけに無言のまま答える。
七倉も俺の姿を確認するだけで声はかけなかった。

そうして、友成と無言のまま準備をしていく。
そこについて俺はおばあちゃんに一言もしゃべることが出来なかった。

お通夜が始まる。

親戚の人間が少ないと言うことで
俺と友成は表に出て、くる人たちを迎えた。

来る人はみんな近所の人なんだろう、
みんな歩いてきて中に入り、
焼香をあげていく。

俺たちは来る人、来る人に

「ありがとうございます。」

と小さい声で迎える。

お坊さんも来てお経が始まった。

俺と友成は端の方で正座して聞いていた。
お経が始まり、十分も経たない間に泣き声が聞こえてきた。

それは一番前に座るおばあちゃんの声だった。

その声がお経と重なる。

それから七倉や桑本も泣き出している。
二人とも南浦とはかなり仲がよかったから。

俺の横では友成も声は出さないが
涙を一粒一粒流していた。

俺は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・泣けなかった。
泣くことが出来なかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死ぬ直前を見ていたから。

俺はその場の空気に耐え切れず一人外に出た。
外に出てタバコに火をつける。

タバコを吸いながら、空を見上げる。
空には無数の星がきらきら光っていた。
こんな時なのに、空に輝く星を見て綺麗だと感じた。

そんな空を眺めていると、
背中に何かぶつかる衝撃があった。

そいつは泣きながら、

「ごめん、ちょっとで良いから背中貸して。」

と俺の背中で声を出しながら思いっきり泣いている。
そいつは姿を見なくても分かった。

その声で。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・七倉 光。


昨日、友達ですら殺すと言ったこいつが
友達の死にこれほど悲しんでいる。

それでわかった。

昨日友達ですら殺すと言ったのは、
ただの強がりだったんだと。

自分の目的を果そうと思う
強い気持ちの意思表示だと。

「中じゃうるさいから、ここでおもいっきり泣け。」

と俺の背中で泣く、七倉に伝える。

泣き声がいっそう大きくなり、
誰もいない道路に響く。






○○○○○







それから少しして七倉が泣きやみ、二人で中に戻った。
すると、お経はちょうど終わってしまった。

桑本は友成の胸を借り泣いていた。
桑本もきっと誰かに支えてもらいたかったんだろう。

七倉は急いで桑本の元に駆け寄り、
桑本を慰めつつ、二人して準備に向かった。

友成が俺を外へと促し、二人して外に出る。

「仁。タバコくれないか。」

いつも俺が吸うタバコの煙を嫌がる友成が言った。

「いいけど、無理すんなよ。」

と言い友成にタバコを一本差し出す。
友成は口に銜え、俺がライターで火をつけた。

俺も一本タバコに火をつけた。
友成は咳き込みもせず普通にタバコを吸っている。

「友成、タバコ吸えたんだ。」

「まぁな。」

二人して表でタバコを吸っていると桑本が

「ごめん。手伝ってくれない。」

と泣き声交じりのかなり小さい声で言った。

一回ぐらいしか吸っていないタバコを友成と俺は
火を消し、手伝いに向かった。

お客さんに親族の代わりにビールを注いだり、
お弁当を包んだりして長く悲しいお通夜は終わった。

俺たちは家に帰らず、
四人で南浦のいる部屋で一夜を過ごした。






○○○○○







夜が明けた。


部屋に窓から差し込む明かりが入ってきた。
辺りは明るく、まぶしく感じるくらいの朝だった。

俺たち四人は、一言も言葉を交わさず一夜を過ごしていた。
それぞれの想いを胸に刻みながら。

すると部屋に親戚の人が入ってきた。

「朝ごはん用意できたから、みんな食べて。」

「ありがとうございます。」

俺が代表して礼を言う。

俺たちは親戚の人が用意してくれた朝ごはんを食べ、
昼のお葬式に向けて準備をし始めた。

動いている間、
少しも寝ていなかったが、眠さは全然なかった。

眼は冴えていたが、
動かなくなった頭はそのまま。

俺は先頭に立ち、
お葬式に向けての準備をやっていた。

親戚の人が

「もう、いいよ。後はこっちでやるから休憩して。」

「分かりました。」

後は身内でする作業だけしか残っていなかったので、
親戚の人に後を任せ休憩することにした。

奥の部屋に行くと先に友成たちが休憩していた。

「お疲れさん。こっち来て座れよ。」

「いいよ。外でタバコ吸ってくるから、なんか飲み物くれないか。」

「ビールしかないけど、それでいい。」

「あぁ。」

俺は七倉からビールを受け取り、
一人外に出た。

こういうときはなんか一人の方が落ち着く。
ビールを一杯飲む。

ビールは一杯飲んだだけで、
体全体に染み渡った。

タバコに火をつけ、店の前の地べたに座っていると
中から、片手にビールを持ち七倉が出てきた。

「横に座っていい。」

「勝手にしろよ。」

一人の方が落ち着くが、
誰かに傍にいてほしい気もした。

矛盾しているが、
今はそんな気がした。

七倉はそのまま俺の横に座った。

「ひとつ聞いていいか。」

「何。」

「アレは強がりだったんだよな。」

今はそんなことどうでも良いのかもしれないが、
自分の中の疑問に答えを出したかった。

「アレって。」

「友達でも殺すっていってたことだよ。」

俺は自分の思い込みでないことを、
七倉本人に証明してほしかった。

「ばれてるんだ。」

「昨日の七倉を見てたらそう思ったから。」

「強がりっていうか理想かな。」

「友達を殺すことがか。」

「違う。友達でも殺すぐらいに目的を叶えたいと思う理想。」

「そうか。」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

二人して話すことを失い、
二人でビールを飲み、ボーっとしていた。

桑本が俺たちを呼びに来た。

「そろそろ始めるみたいだよ。」

「分かった。」

七倉は俺のビールを持ち、
片付けに行ってくれた。

お葬式が始る。

俺と友成はまた表に出て、
来る人に挨拶をしていた。

俺たちはお葬式の間、
一回も中に入ることはなかった。

ただひたすら外で受付や挨拶をしていた。
埋葬するため、最後の見送りをする。

俺たちも中に入り、
別れをつげに行く。

俺たちは一つずつ花を持ち、
南浦の棺桶の周りに並ぶ。

棺桶のふたが開く。

南浦の顔はどこか綺麗で、
笑っていた。

それを見た瞬間、俺の眼に涙が溜まってきた。

殺されてしまった人間。
その人物は棺桶の中で笑っていた。

自分が情けなかった。

自分に都合の良い言い訳を考えたりしていた
自分が情けなかった。

こらえきれず、涙が頬を伝っていく。
こらえられなかった。

涙が溢れ出し、
中に花を添えることすら出来ない。

「鏡崎くん。」

七倉に促される。
俺の涙ぐんだ眼でもわかった。

促した七倉も眼に涙をためていた。
俺は袖で涙をぬぐい、顔のよこに花を添えた。

また涙が込み上げてくる。

耐え切れず、その場を離れ、
奥の部屋に行き、大声で泣いた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁっぁあっぁあっぁぁぁ。」

俺の中には罪悪感でいっぱいだった。
あの時、拓海に悔いはないと言った。

・・・・・・・・・・・・・・・・ある・・・・・・・・。
自分の胸に抱えきれないぐらい。

少しして友成が俺を呼びに来た。

「・・・・・・仁・・・・。南・・・浦・・・・運ぶから、来て・・・くれ。」

俺を呼びに来た友成も泣いていた。
俺はまた袖で涙を拭き元いた場所に戻る。

しかし涙は止まることはなかった。
奥から奥から沸いてくる。

俺は涙を流しながら、
棺桶を運び、車に積んだ。

その後、バスで焼き場に行き、
骨拾いをした。

またバスに乗り、南浦の家に帰る。

後かたずけは身内でするからと言われ
俺たちはそれぞれ家に帰ることにした。

互いに交わす言葉もなく。

家に帰るともう夜の九時だった。
布団を引き、着替えもせず倒れこむ。

疲れていたのかすぐに寝てしまった。
そうして今日という日が終わった。