○○○○○





自然と眼が覚めた。
物音一つしない。明るくもない。
ただ、ほんとうに自然と眼が覚めた。

辺りを見回すとまだ暗い。

時計をみると八時を指していた。
八時かっと思いまた目を瞑ろうとした瞬間、
時計を睨む。

八時・・・・・。

昨日寝たのは、九時過ぎ。

・・・・・八時。

そう俺は、二十三時間、一回も起きることなく爆睡していた。
頭をかきむしり、眼が覚めなかったことを悔やむ。

やりたかったことなんて特にないが、
一日を無駄にしたことが悔やまれる。

俺はとりあえず、大家さんの部屋で風呂に入ろうと思った。
服と体には線香の匂いが移り、鼻につく。

タオルとTシャツ、短パンを持ちいつものごとく風呂に入った。
風呂で入念に洗ったせいか、出た頃には線香の匂いは消えていた。

部屋に戻り、速攻で冷蔵庫を開け、
オレンジジュースをがぶ飲みする。

すると呼び鈴が鳴る。

ピンポーン

こんな時間に誰かと思い、扉を開けるとそこには、
SAPのローブを着た七倉がいた。

「どうしたんだ。」

「昨日がお葬式で行く気なんかしないのは分かってる。
分かってるけど、いちよう誘いに来た。」

「もしかして・・・・・・・・。」

もしかしてじゃない。
七倉は本気だ。

「そう、仕事。どうする。」

「行くよ。俺もSAPの一員だし。気分は乗らないけど。」

本当に気分が乗らなかった。
昨日はお葬式で今日は殺人。精神が正常じゃない。
でも、これが俺が身ずから足を踏み入れた世界。

「じゃあ、着替えてきて。その格好だと目立つし。」

「わかった。少し待っててくれ。」

俺は服を着替え、上にローブを着て、
ダガーとナイフを刺したベルトをした。

ドアを開け、七倉にこれで良いだろうと言い、
アパートを後にした。




今日のターゲットは、無職の犯人。

罪は、窃盗。

50件にも及ぶ被害届けが出されているにもかかわらず、
まだ捕まっていない。

政府の人間も何人か被害に合い、
今回、SAPで始末することになった。

だからと言ってすぐにそんな犯人に会うわけもない。
テレビアニメの名探偵コ○ンじゃあるまいし。

それなのに七倉は一人、黙々と歩いていく。
その後を俺はあくびをしながら歩いていた。

あまりに無謀すぎる七倉に声をかける。

「なぁ、七倉。そいつ警察にも捕まらない相手だろう。
ただ歩いていても見つからないって。」

「そんなことは分かってるよ。
それにただ歩いているだけじゃないよ。」

「どういうことだよ。」

「今、犯人の家に向かってるの。」

「マジかよ。いきなり家に行くのかよ。」

「今回の相手は、どこに居るのかもわからないし、
情報も少ないし、まずは身辺調査かな。」

「じゃ、今日、もし見つからなかったら、
そいつを殺さなくていいのか。」

「うん。別に無理する必要もないし。」

「そうか。」

俺は正直うれしかった。
七倉には悪いが人を殺すなんて気分じゃない。

今日は犯人が家に居ないことを
祈りながら七倉の後ろ付いて歩いていた。

それから十分ぐらい歩いて、
目的の場所に着いた。

その家は普通の民家で、どこにも違和感なんてなく、
犯罪者が住んでいるとは思えなかった。

表札には、塩田と書いてある。
七倉に確認を取る。

「ここで間違いないよな。」

「塩田 和幸。確かにこの家に住んでる。」

「じゃ、行くか。」

「うん。」

そう言い俺が先に玄関に向かった。
こういう場合は普通裏から入るが、表から行った。

外から確認するだけでも
家に人が居る気配がなったから。

玄関のドアは開けっ放しになっていて、
どうぞ入ってくださいといわんばかりにドアが開いていた。

ドアの前で振り向き、七倉に再度確認を取る。

「ここでいいんだよな。」

「たぶん。」

さっきとは対照的に、
七倉の言葉に自信がなかった。
家の中に土足で足を踏み入れていく。

家の中に入ったとたん息を呑んだ。
否、無理やり飲まされた。

家の中はまさに血の世界。
意識が反転しそうなくらいの。

廊下には血が飛び散り、
上、下、右、左。どこを見ても血が付いていた。

しかもまだ新しいときた。
天井に付いた血がぽたぽたと垂れてきている。

無言のまま廊下を進む。

進んでいくとドアの開いた部屋があった。
そこはたぶん居間だろう。

入口で足を止める。
七倉も俺の横で足を止めた。

居間には女の死体と子供の死体が転がっていた。

七倉は手を口にあて、驚いている。

半年、SAPにいてたとはいえ、
これほどの現場を見たことがなかったのだろう。

女の死体はたぶん奥さんだろう。
手には結婚指輪と思われるものがはめられていた。

奥さんの死体は鼻から上の顔がなく、そこからは夥しい量の血が出ている。
赤い斑点模様を部屋に飛ばしていた。

子供の死体は首から上がなく、
さらに片足までなかった。

その部屋は世界で例えるとまさに海。
水溜りなんてかわいく呼べるものじゃない。

そんな光景を見ていると、
奥の部屋から叫び声が聞こえた。

その場を立ち去り、叫び声の聞こえた部屋に行く。
ドアを開けるとそこには人がいた。

俺たちに背を向け、長刀を右手に持ち、左手に首のない死体を持つ
SAPのローブを着た男が立っていた。

「悪いな。こいつは俺の人形だ。」

そいつは振り向くこともせず、
俺たちに話しかける。

「そこまでしなくても。」

七倉は一歩前に出て、主張する。
男はゆっくりとこちらを振り向く。

「俺に意見するな。次しゃべったらなくなるよ首。」

「・・・・・・・・・・・・」

七倉は黙り込む。
俺でも感じ取れる殺気を七倉も感じているんだろう。

「ダメよ、JOKER。新人さんたちを怖がらせちゃ。」

JOKERと呼ばれる男の向こうから、
女の声がした。

「わかってるって。軽くからかっただけだ。」

「なら良いけど。」

奥にいた返り血を浴びきったその女は、
俺たちの前でわざわざ軽く会釈をし、

「私たちの用は済んだから帰らせてもらうわ。お先に。」

と言いこの家からでていく。
死体を持ったJOKERは死体を真上にほり投げ、
空中でその男の死体を半分にした。

上から降り注ぐ血がJOKERを
赤黒く染めている。

そいつはゆっくり歩き、
俺たちを無視して通り過ぎる。

すると去りぎわ、足を止める。

「お前らもいつか刈ってやるよ。」

「今のは宣戦布告か。」

俺はなぜかむかつき
そんな言葉を言い返してしまった。

「あぁ、今度会う時が殺し合いだ。」

JOKERは止めていた足を動かし去っていた。
俺と七倉はその場に立ち尽くししゃべることが出来なかった。

「帰ろうか。」

俺は七倉に声をかけ、先に家を出た。
七倉も遅れて出てきた。

俺たちは無言のままその場から去り、
それぞれの家に帰った。





○○○○○





朝を迎える。
昨日は一睡も出来なかった。

二十三時間も寝たせいか
あんなヤツと会ってしまったせいか。

俺の気分はとにかく悪い。

仕方なく体を起こし、台所で顔を洗う。
冷たい水が俺を冷静にしようとする。

居間に戻り、また寝転ぶが気分は変わらず悪い。
俺は気分を変えたくて、家の外に出た。

ドアを開け、鍵を閉めて歩き出そうとした時、
そこにはすごい荷物を抱えた七倉がいた。

「何してんの。」

思わず声をかける。

「家貸してくれるって言ったよね。」

当然の返答。

「言ったけど、急だな。」

「だって心配だから。」

「何がだよ。」

「一人で行くんじゃないかと思って。」

昨日、あいつが俺にした宣戦布告。
俺がそれに自ら挑みに行くと思っていたらしい。

「行かねぇよ。相手も二人なんだから行く時は声ぐらいかけるよ。」

「うん。ところで部屋どこ。」

「俺の隣の部屋。そこだよ。」

俺は七倉の横の部屋を指差す。

「ありがとう。今日はいろいろあるし仕事行けそうにないから。」

「見れば分かるよ。鍵持ってくるから待ってろ。」

俺は大家さんの部屋に行き、
七倉の部屋の鍵を持って戻っていく。

「これがこの部屋の鍵だから。」

七倉の荷物一杯の手に乗せる。

「どうも。じゃ、また後で仮登録の紙わたすね。」

「あぁ、今から散歩に行くから急がなくていいよ。」

七倉に別れを告げ、俺は太陽が照りつける中、
行く当てもないのに歩き出した。



俺はただひたすら歩いていた。

汗が出てきて、気がつくと何でかわからないが
友成の家の前にいた。

暇だし友成と久しぶりに遊ぶか。
そんないきなりな案を思いつき友成の家を訪ねる。

ピンポーン

呼び鈴を鳴らす。
玄関が勢いよくあく。

バァン

そこには髪の毛がボサボサで、
身だしなみなんか一切気にしていない
友成の姉さんが出てきた。

「久しぶりじゃん仁君。なんか用。」

いきなりの訪問に喧嘩腰だ。
さすが元ヤンキー。

「友成いますか。」

「あいつなら学校だよ。いっても意味ないのによく行くよ。」

アイツはあいつなりに
学校に行く意味があると思う。違う意味で。

そう思いながら、言葉にはしない。

「そうですか。ならいいです。すみません。」

「帰るの。友成なら強制的に帰ってこさすけど。」

「本当に良いです。また今度にします。」

「あっそ。じゃねぇ。」

と思いっ切りドアを閉め家の中に帰っていった。

あの人はやっぱりすごい人だなぁと思いつつ
俺は仕方なく家に戻っていった。






○○○○○





アパートに戻ってきた。

家に入り、恒例の朝昼兼用の飯を食べようとした。
しかし、台所に行くとカップラーメンやおにぎりが一つもなかった。
クリスから貰ったから揚げすらない。

少し考え、仕方なくスーパーに行く。

七倉の部屋の前を通ると
中からはものすごい音が聞こえてくる。

リホォームでもしているくらいの。

その音を聞かなかったことにして
スーパーに向かう。


今日のスーパーは意外に空いた。

いつもならおばちゃんどもで、
店に入っていくのすら苦労するのに、
今日は難なくお目当てのところに着いた。

やはり来る場所はカップラーメンの安売り場。

今日はカップラーメンを六個買い、
安売りのパンを六個買った。

総額1060円。1060円。

もうこの世には、
カップラーメンとパンだけで良いと思う安さ。

なんだかこの安さに幸福さえ覚える。
袋に買った物を適当に詰め込み笑顔でスーパーから出て行く。

家に戻ってくると、
七倉の部屋からはまだとてつもない音が響いてくる。

それをまた無視して部屋に入り、
いつもどおりに準備をして朝昼兼用の飯を食べる。

時計はすでに3:00を指していた。

飯が食い終わりタバコを吸おうとすると、
タバコはもう一本も残っていなかった。

買いに行くのもだるかったので、
家にあった飴を舐めてごまかすことにした。

だるいというのももちろんあったが、
本当は行きたくなかった。

おばあちゃんのいるあの店には。

残っていた内職を仕上げるため、横から聞こえる騒音に対して
コンポの音量をMAXに近くして部屋でながす。

曲は俺の大好きなjanne da arcのblack jack。

曲を聴きながら、内職に集中した。
内職は十分ぐらいで終わった。

その時には、横からの騒音も消えていたので、
コンポの音量を下げ、休憩していた。

するとバイブにしていた携帯が震える。

「もしもし。」

電話の向こうから友成の声が聞こえた。

「友成、どうした。」

友成の声はいつになく小さく、明るさがなかった。

「今から来いってか。・・・・・・分かった行くよ。」

内職をかたずけ、行く準備をする。
そのまま出ようとしたとき俺の頭に


                         ソノママイッタラクワレルゾ   
 

誰の声か分からないが、
心に訴えてくるような声がした。

なぜかその言葉が引っかかり、
一様、専用のベルトをしてナイフとダガー刺し出て行く。





○○○○○







学校が終わり、一人寂しく帰宅している。

今日もクリスが学校に来ていなかったため、
暇で暇でしかたがなかった。

そのため一人で帰っている。

帰り道かわいい女の子でもいないかなと回りに眼を配り歩いていると、
目の前に綺麗なストレートの髪をしたあ姉さんを発見した。

ダッシュで駆け寄り、

「お姉さん、僕と遊んでくれませんか。」

眼をキラキラ輝かせながら問う。
すると意外な答えが返ってきた。

「おもしろい坊やねぇ。もしかして山下友成くん。」

「うれしいな。俺の名前を知ってるなんて。」

「有名よ、あなた。」

すごい。すごすぎる。オレ。最近のオレはやばい。
ナンパ成功率99.9%。俺に怖いものなし。
オレのことを知っているなら話は早い。

心の中で気分を高めていく。

「どうも。ところでどこ行きます。いきなりホテルでもいけますけど。」

「やる気満々なのね。」

「もちろん。あなたとなら何処へでも。」

「遊んであげるのはまた今度。今日はあなたに伝えたいことがあるの。」

答えを聞いた瞬間がっかりした。

「なんですか。」

「クラスにクリストファー・ヘル君っているわね。」

そっちかよ。心の中で突っ込む。

「もしかしてクリス狙いですか。」

「ちがうの。あなた、クリス君と友達。」

「親友ですよ。」

「そうなの、かわいそうに。」

「何がですか。」

「クリス君は殺されたのよ。」

驚きの発言。不意を撃たれた感じ。
そんなことは信用できなかった。

「お姉さん冗談きついですよ。」

「ほんとよ。しかも殺した犯人は鏡崎仁。」

またしても驚きの発言。
ますます信じられない。

「そんなこと言われても信じられないっすよ。」

「じゃ、付いて来て。彼の死体を見せてあげる。」

促されるままにその人の後についていく。
彼女の背中は自信に満ち溢れウソではないと語っていた。




連れて行かれたのは近くの病院。
その病院の手術室の台にクリスの死体はあった。

ライトに照らされ、
隠すとこなく明確に表されている。

「マジかよ。何でオマエは死んでんだよ。」

クリスの死体はバラバラになっていた。
首、右腕、左腕、左足、右足、体。

直視することすら出来ない有様だ。

「どう。私の言った事信じてもらえた。」

「仁がクリスを殺したかどうかはまだ信じられないけど
クリスが死んだことは信じるよ。」

「写真があるの彼が殺されている写真が。」

「・・・・・・・・・・・・・」

写真を見て言葉を失う。
そこには、クリスと仁が殴り合っている写真がいくつもあった。

心の中で何かが音を立てて崩れていった。

オレの中にあるのは仁の裏切り。
友情に対する裏切り。
信頼に対する裏切り。

許せない。
アイツのすべてが許せない。

「・・・・・アイツ・・・・・・・・・・・・・許せない。
・・・・・・・・・・・アイツを殺す。」

「今の貴方じゃ無理ね。」

「どうして。」

「鏡崎仁の方が強いからよ。もしよければ、
私が鏡崎仁を殺す力を貴方にあげましょうか。」

「・・・・・・・・・アイツを殺す力をくれ。」

「いいわ。手術することになるけど良いかしら。」

「あぁ、アイツを殺せるなら。」

オレは服を着替え、手術台に寝転ぶ。
五人の緑の服を着た人間が入ってきた。

彼女は小声で何か伝える。
五人の医師は、俺を囲む。

すぐ麻酔を打たれ意識がなくなった。



眼が覚める。

意識はちゃんとある。
痛みは何処にもない。
どうやら成功したらしい。

彼女が俺の顔を覗き込む。

「完璧に移植は出来たけど
血とかいろいろ物が合わないからつらいかもよ。」

「移植したのか。」

「クリス君の右腕と左腕をね。クリス君には不思議な力があったの。
だからあなたにその腕を移植すればそのまま力があなたにもいくはず。」

「確かじゃないのか。」

「試したことがないからね。」

「アイツを殺せるならそれで良い。」

「その手で仁君に触れれば殺せるはずよ。」

「ありがとう。出来れば写真をくれないか。」

「いいわ。頑張ってね。」

「・・・・・・・・・・・・・・」

手術台から降り、ポケットに写真を詰め込み
学校のシャツを上から着て、病院を後にした。

外出るともう夕方で夜になりかけていた。
電話をかける。

「もしもし。」

「仁、今から学校に来てくれないか。」

「いいから頼む。」

そう言い電話を切った。
そのまま学校に向かう。

学校に着き、塀を乗り越え、
運動場の真ん中で仁を待つことにした。

すると後ろから声が聞こえる。

「君、こんなところで何しているんだ。」

学校の警備員だろう。

「うるさい。」

小さい声で言う。

「早く出て行きなさい。」

オレの声を無視して、
オレに近づいてくる。

「目障りなんだよ。」

オレは振り向き警備員の首を掴む。
すると警備員の手首から勝手に血が噴出す。

手は離さない。
次に足首。首。口。眼と次々に血が噴出した。

オレの体に返り血を当てながら、
警備員は息を引き取った。

そこに声がする。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・友成。」












○○○○○






急いで家を出る。

外はもう暗く、街頭が付いていた。
街頭に照らされた道を走って学校に向かう。



学校に着いた。

深呼吸を一回して、塀を登り、
運動場にいく。

運動場の真ん中には、
警備員の首を掴み、返り血を浴びた友成がいた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・友成。」

後姿の友成に近づいていき、
ぼそっと声をかける。

「やっと来たか、仁。」

俺を確認もしていない友成が、
振向きながら、声を出す。

「オマエ何やってんだ。」

「見て分からないのか、人殺しだ。」

「友成・・・・・。」

かける言葉が見つからない。
友成の心境が分からない。

「仁、オマエに聞きたいことがある。」

俺を仁と呼ばず、初めてオマエと呼んだ。
その声からはいやおうなしに敵意を感じる。

「何だよ。」

「オマエ、クリスを殺しただろう。」

「やっぱり死んだのか・・・・・・・・・。」

それ以上は何もいえない。殺してはいないが・・・・。
確かに殺してはいないが・・・・・・・・・・見殺しにした。

「殺したかもな。」

あえて本当のことを言わなかった。
死ぬのを分かっていて助けなかったなんていえば、
友成は必ず俺を許さないと思ったから。

それに見殺しにしたって事は、
クリスを殺したも同然だ。

だからあえてはっきりとは答えなかった。

「そうか、殺したのか。何でだ。」

「それは言えない。」

そんなことを言ったら、
友成は死んだクリスをさらに殺しそうだ。

生きている俺が眼の前でそう感じるのだから、
間違いはないだろう。

「オマエに裏切られるとは思ってなかったよ。」

「すまん。友成を裏切ったつもりはないけど、
友成がそう思うんなら俺は裏切ってしまったんだろうな。」

「もう御託はいい。死ね。」

「友成、本気なんだな。」

「あぁ、本気だ。」

「そうか。なら殺せ。オマエがいなかったら、
俺はもう十年前に死んでるんだから。」

「なら十年遅れの死を受け入れてくれ。」

友成はそう言い警備員の首を離し、
俺に向かって走ってくる。

俺は一歩も動かない。

友成は俺の首を掴む。
俺の手首から血が噴出す。
きっとクリスにやられた傷口も開いたんだろう。

友成の下半身に血が飛ぶ。

「どうして逃げない。オレはオマエを殺すんだぞ。」

「どうしてって聞かれても。逃げる理由がないからに決まってんじゃん。」

「そうか。もういい死ね。」

「最後に一つ。クリスの遺言だ。
日曜はいけなくなった。それだけだ。」

クリスの遺言だけは、友成に伝えときたかった。

俺の足首からも血が噴出す。
クリスの時と同じだ。
感覚が薄れていく。

「オマエの遺言も聞いてやる。」

「ありがとう。そしてすまん、友成。」

手、足の感覚が薄れいく中で友成に告げる。
友成の眼から涙がこぼれる。

すると友成は首から手を離し、
俺を一発殴った。

殴られた瞬間、
手首からまた血が出る。

俺はその場に仰向けに倒れる。
俺を見下ろし、友成が聞く。

「なんでだよ、仁。
何でクリスを殺したんだよ。」

友成の声から殺気が消え、
泣き声交じりに聞いてくる。

「言ってもいいのか。俺の言葉なんて当てになるのか。」

「それは俺が判断する。いいから言え。」

「南浦をクリスが殺したから・・・・・・・・・。」

「クリスがエリカちゃんを。」

友成の声には驚きと悲しみが混じっていた。

「俺はクリスを見殺しにした。それだけだ。」

「クリスを殺してないのか。」

友成は明らかに動揺していた。

「あぁ、死ぬことはわかっていたが助けなかった。」

「クリスをバラバラにしたんじゃないのか。」

友成はわけの分からない事を聞いてくる。

「悪いが友達をそこまでするほど腐ってないよ。」

「じゃあれは。」

「あれってなんだよ。」

「もういい。もういい。もういい。もういい。」

友成は頭を抱え込み、荒れている。

「どうした。友成。」

「もうどうでもいいんだ、仁。とりあえず死んでくれ。」

友成は混乱している。
混乱しているというよりは頭のネジが一本なくなった感じだ。

友成は誰よりも友情を大切にしている。
でもそれが間違って自分から友情を壊してしまった。

友成の中の勝手なルール(決まり)。
それは友達を大切にし、友情を壊さないことだったんだと思う。
でもそれを自分から破ってしまった友成は、
もう自分ではどうして良いか分からないんだろう。

だから・・・・・・・・・・・・・


友成は倒れている俺に手を伸ばす。

俺は理由もなく殺されるのはごめんだ。
というより今の友成に殺されのが嫌だ。

下から蹴りを入れ友成を蹴り飛ばした。
友成は、足を絡ませ倒れる。

その間にうつ伏せになり手を付きながらも立ち上がり、
ベルトに刺していたダガーを抜く。

友成も立ち上がる。
立ち上がった友成のシャツの腕の部分に血が滲んでいた。

友成は片手で血が滲む右の腕を掻き毟っている。

「痒い痒い痒い痒い痒い痒い、
カユイカユイカユイカユイカユイ、
かゆいカユイかゆいかゆいかゆいかかかかかかか。」

友成はもう友成じゃなくなっていた。
今の友成はイカレタ狂人。

そんな友成を見るのが辛かった。
今までの友成じゃないから。

俺は友成に足を引きずりながらも近づく。
ダガーを構え、正面から突き刺そうとした瞬間、
友成の手が俺に触れた。

友成はその時笑っていた。
まるであの時の桐谷君みたいに。

その瞬間、俺の口から血が飛び出る。
俺はその場に感覚の薄れた手を付く。

「死ねよ、仁。死ねよ。」

俺から友成は手を離そうとしない。
俺の口から血が吹き出続ける。

俺は感覚の薄れた手を何とか動かし、
ダガーを持った手で俺に触れる友成の腕を切断した。

友成は尻餅を付き後ろに転がる。

切断した友成の手からは
おびただしい量の血が出ている。

友成は切断された手の部分を押さえながら、狂う。

「腕がない、腕がない、腕がない、腕がない。
また移植をしよう、そうだ。移植だ。移植だ、移植だ、移植だ。」

友成の言葉を聞いて分かった。

何もしていないのにシャツに滲む血。
クリスが殺されたことを知っていたこと。
友成が触れるだけでクリスの持っていた能力が何故出るのか。

すべて誰かが友成を利用して、
クリスの腕を移植させ、俺を殺すように仕向けたんだろう。

確かめたいが今の友成に言葉はもう通じないだろう。
怒りがわいてくる。

俺たちをこんな風にしたヤツは絶対殺す。
俺の邪魔をするやつは殺す。
俺のダチをこんな姿にしたやつを殺す。

俺の中に新しい決まり(ルール)ができた。
俺は俺の前に立ちふさがるヤツを殺す。
友達だろうがなんだろうが。

俺の前にいるのは、親友だった友成。
今、俺の前に立ちふさがっている。
なら殺すまでだ。

俺は腕をなくし、
叫び狂う友成に近づいていく。

友成にはもう俺の姿すら眼に写っていないのだろう。
俺が近づいているのに腕すら伸ばそうとしない。

俺は腕を振りかぶり友成の頭にダガーを突き刺した。
友成は膝を崩し、ゆっくりと俺にもたれ掛ってきた。

俺は少し体を動かす。
友成は地面に倒れこんだ。

そして友成の口が開かれることはもうなかった。


雨がぽつぽつと降り始める。


俺はその中一人静かに立ち尽くす。
雨が降る空を見上げた。

その空は俺の心を
映し出してくれているかのようだった。

友成の頭からダガーをゆっくり抜き、
血のついたままベルトに戻す。

頭からは血が飛び出さずダラダラ漏れ出し、
雨と交じり合っていく。

友成の死体に俺は最後の言葉を告げる。

「すまんな・・・・・・・・・・・・・・・友成。」

俺は友成を置いて、その場から離れていく。
学校の塀をゆっくりと登り学校の外に出る。

学校を少しの間見つめる。

クリスとの思い出。
友成との思い出。

すべてが俺の頭に蘇る。


雨はその間にも勢いを増していく。


帰りの道を感覚の薄れた足で走り駆け抜ける。
走っていると足を滑らし転んだ。

感覚がなくなってきているのに、
無理に走ったせいだろう。

手を付き体を起こす。
転んだところは偶然にも南浦の家の前だった。

悔しさが込み上げてくる。

俺は悔しさを抑えゆっくりと立ち上がり、
アパートに向かって歩き出す。

家に帰り、ズクズクまま玄関に座り込む。
座った瞬間、自然と眼から一滴何かがたれる。



ざぁぁぁぁ、ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、
ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、うあぁぁぁぁぁぁぁ、
ざぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ、
ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ざぁぁぁぁぁぁあぁぁ。


雨の音に紛れ叫んだ。
声がかれるほど。



俺は玄関で寝転びそのまま眠りに付く。