その靴音は軽快で、
俺たちの状況を完全に無視するようだった。

その靴音は一歩だって、止まることはない。
そう確実に俺たちのいる三階に向かっている。

「誰か来るよ。」

七倉が分かりきったことを口に出す。

「わかってる。でも、誰であろうと俺は・・・・・・・」

そんなことは分かっている。
どんなにアホな俺でも、この状況ぐらい把握できている。

俺は誰が上がってきても、
俺を邪魔するなら・・・・・・・・・殺す。

自分の中の勝手なルールに従いコロス。

靴音が校内に響く。

正面の階段を上がってきてるのは分かっているが、
左からも右からも靴音が響いて聞こえてくる。

そいつは眼の前に現れた。

黒のローブに身を隠し、
そいつは何も言わずに近づいてくる。

一段一段、確実に。

そいつは俺たちの眼の前まで来て静止し、
言葉を発した。

そいつから聞き覚えのある女の声がした。

「何してんの。こんなところで。
もしかしてお邪魔だった。」

フードをとり微笑みながら、
まったく状況を把握していない感じの顔を俺たちに向ける。

「なんで桑本が此処にくるんだ。」

純粋な疑問をぶつける。

「そんなこと私に聞かないでよ。
相棒に呼び出されただけなんだから。」

なぜか逆切れ。
桑本の態度は俺に対してかなり厳しい。

なんか俺、悪い事したか。
桑本に聞く前にそっと心臓に手をあて、自分に自問する。

俺がそんなことをしている隙に、
七倉が会話に入ってくる。

「でも、よかった。愛で。」

「どういう意味よ。やっぱり邪魔だったとか。」

七倉の言葉には笑顔で返す桑本。
やっぱり俺・・・・・・・・・・・・何かした。

そんな俺を無視して、桑本は座り、
何をしていたのか真剣に聞いてきた。

俺たちは学校の三階の廊下に座り込み、輪になって、
今の状況を桑本にすべて伝えた。

病院から帰ると俺たちが犯罪者になっていたこと。

テレビを見ているといきなり警察が家に押し入ったこと。

拓海が助けに来てくれたこと。

そのまま拓海にその場を任せ、学校に逃げて来たこと。

学校で今、隠れていること。

本当にすべてのことを話した。
洗い浚いすべてのことを話した。

桑本は俺たちの話を聞いた後、
少し考え込み、答えを出した。

「それならSAPの代表に聞けば、何か分かるかも。」

「でも、今ここから動くといろいろと面倒だろ。」

またまた俺の純粋な質問、パートU。

「うーん。」

考え込む桑本。
するとタイミングがかなり悪いところで桑本の携帯が鳴る。

桑本の着歌はDir en greyの残-zan-で、
それが校内に大音量で響き渡る。

桑本はポケットに入れていた携帯を
慌てる様子もなくゆっくりとだし、電話に出る。

「もしもし、みかんさん。今どこに居るんですか。」

どうやら桑本の相棒の人かららしい。

「本部にこれから来いって、無理ですよ。
今、私の前に問題児二人がいて、ほっとけないんですよ。」

どうやらみかんさんという人物は、
学校には来ていないらしい。

「わかりましたよ。行けばいんでしょ。」

桑本がキレながら電話を切り、
俺たちに顔を向ける。

「本部にこれから行くけど、二人はどうする。
援護ぐらいするけど、主に光の。」

「ありがとう。」

「ありがとうじゃねぇ。それに何で七倉だけなんだよ。」

「だって私、鏡崎くんのこと好きじゃないから。
それに鏡崎くん、援護とか必要じゃないでしょ。」

「まぁな。俺はお前の援護がなくたって本部くらい余裕で行けるよ。」

「じゃ、光、行こう。バカはほっといて。」

「待ってよ。やっぱり援護してください。」

「いや、断る。」

「七倉からも何とか言ってくれ。」

「私はどっちでもいいよ。」

「薄情者、俺はどうなってもいいのか。」

考え込む七倉。
おい、そこ考えるとこじゃないだろう。
自分のなかで七倉につっこむ。

そんな七倉を見て、桑本が口を開く。

「仕方ないな。じゃ、私が先頭行くから二人は後に付いて来て。」

「大丈夫かよ。お前が前で。」

「なんなら鏡崎くん一番前、・・・・・・・・行く。」

「いいです。遠慮しときます。 」

「じゃ、行こう。」

桑本に促されるまま、俺たちは、
階段を下りて行き、一階の窓から外の様子を見る。

外には、まだパトカーが徘徊していた。

「行くわよ。」

「待てよ。外には警察がいるだろうが。」

「黙って。」

「・・・・・・・・・・。」

桑本の眼は真剣で、何も口出しできなくなった。

桑本は腰から丸い弾を取り、窓を静かに開け、
徘徊するパトカー向かい弾を投げた。

それはパトカーに当たる前に爆発した。
一瞬、パトカーが跳ね上がり、爆風が帰ってくる。

「今よ。」

桑本は窓から出てダッシュで校門に向かう。
俺たちも桑本の後に続き、窓から出て校門に走る。

桑本は先に門のところに立ち何かしている。

「この錠、開かない。」

当たり前だ。
錠って言うものは閉じるためのものだから。

これはあえて口にしない。
何をされるか分からないから。
もしかしたら、爆殺されるかもしれないし。

すると桑本がこっちに顔を向けた。
慌てて顔を逸らす。

「光、この錠を叩き潰して。」

その眼は俺を見ずに、七倉を見つめていた。

「でも・・・・・・・・。」

さすが優等生。
学校の物を壊すのに抵抗があるらしい。

「いいから、光。」

「七倉。」

二人で七倉の背中を押す。
七倉は決意したのか棒を振りかぶり、
錠を叩きつける。

錠は簡単に潰れ、門が開いた。

七倉の顔はどこか申し訳なさそうだ。
でもそんなことを気にしている場合じゃない。

桑本は走って行く。
俺たちはその後に続き走る。                       

学校を出て、桑本の背中を追い、
SAP本部に続く道をひたすら走る。
三人ともかわす言葉もなく。

走っていると、前から赤いランプを輝やかせながら、
二台のパトカーが来た。

桑本はまた腰から爆弾を二つを取り、全力投球。
全力投球した爆弾はパトカーのフロントガラスに直撃。

前の二台のパトカーは見事に大破した。

おかげで前の道は二台のパトカーが炎上し、
道をふさいでいた。

七倉は走ることを辞めずに、
桑本の背中に言葉をかける。

「愛、どうするの。このままじゃいけないよ。」

「同感だ。どうするんだ。」

俺も桑本の背中にしゃべりかけるが、
その返答はない。

桑本は止まらない。

「・・・・・・・・ゾ・ゾ・する・・・・。」

桑本がボソッと何か呟いた。
その声はあまりに小さく、ちゃんと聞き取れなかった。

「桑本なんか言ったか。」

「・・・なんでもない。
とにかくこの道を真っ直ぐ行く方が近いからこのまま行く。」

「行くってこの火の中をか。」

「もちろん。」

桑本は一人、スピードを上げ、
火に向かい猛ダッシュ。

そのまま一人、火の中に消えてしまった。

俺もその後に続こうとするが、
・・・・七倉は・・・・・・・・・・・・。

「七倉、大丈夫か。行けるか。」

「うん。何とか。」

答える七倉の顔は言葉とは反対に少し怖がっていた。
それでも行くしかない。

二人でスピードを上げ、火の中に飛び込む。

向こう側に無事着地。
横を見ると、七倉も無事だ。

俺たちの前、50メートル先に、
桑本が早くといわんばかりに手招きをして待っていた。

二人して顔を見合わせ、桑本のところまで走る。

するとその間にパトカーがまた二台、
わき道から出てきた。

俺はベルトからダガーを抜く、
七倉も背中に背負っていた金剛棒を持ち、
そのまま、パトカーに向かい走って行く。

しかし、二台のパトカーはいきなり吹き飛び炎上しだす。
爆風に紛れいろんなものが飛んで来る。

俺は七倉の手を引っ張り、屈ませ、
その上に覆い被さる。

爆風が強すぎて、体が吹き飛びそうになるが、
何とか持ちこたえることが出来た。

体をお越し見るとパトカーは横転し、
仰向けになりながらも炎上していた。

しかもさっきの爆発は校門でパトカーに投げた時より
威力が違いすぎる。

その場に舞っていた煙が晴れていく。

向こう側に人影が見えた。
桑本に、今のはやりすぎだと声をかけようとしたが、
声を出さなかった。

向こう側にいる桑本が確実に笑っていたから。

俺だってめちゃくちゃ眼が良いわけではないが、
確実に俺の眼はその微笑を捉えていた。


・・・・・・・・・・・・・何か違う。


・・・・・・・・・・・・・普段の桑本と。


・・・・・・・・・・・・・何か・・・・・・・・。


桑本がこっちに向かって小走りに来る。
俺はダガーを持った手を強く握る。

もし今、警察に追われてなかったら、
もし今、こんな状況じゃなかったら、


俺は・・・・・・・・

確実に・・・・・・・・・・・・

桑本を・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・殺している。


それは近くにいてほしくない存在だから。
いつか俺たちを笑いながら殺してしまいそうだから。
クリスや友成の時ような気持ちを味わいたくないから。

俺は顔を下に向け立ち尽くす。
でも、眼は確実に桑本を捉えている。

横で七倉もようやく立ち上がる。
そこにさっきとは違う笑顔で桑本が駆け寄ってきた。

「光、鏡崎くん大丈夫だった。」

「私は大丈夫。鏡崎くんが守ってくれたから。」

「俺も・・大丈夫だ・・。」

そのまま本部に向かう。
桑本の背中を追いながら。
さっきとは違う気持ちで。

本部のある通りに入る。
本部の前には赤いスーツを着た女が立っていた。







その赤いスーツを着た女は、
本部の入口の壁にもたれながら、タバコを吸っていた。

「みかんさーん。」

眼の前にその人がいるのに、桑本はその人の名前を大声で呼ぶ。
当然相手からは、

「うるさい。黙れ。」

とかなり厳しい返答が返ってきた。
みかんはタバコを捨て、俺たちと向かい合う。

「あんた等が今、噂の犯罪者か。」

「・・・・・・・・・・・。」

言葉に詰まる。七倉も黙っている。

俺は言い返すことも出来るが、
したところでそれは単なる言い訳に過ぎない。

桑本がそんな俺たちを見て、
ひそひそとみかんの紹介をしてくれた。

@

武田みかん

警視庁の庁官で警察内部では能力を隠し、
その地位まで上り詰めたらしい。

犯人を見つければすぐに射殺する。
危ない人。

肩まで髪で髪の色は赤。
赤の眼(カラーコンタクト)にいつも赤いスーツを着ているらしい。
年下を虐めるのが好きらしい。

@

「だからそんなに気にすることないって。」

桑本のフォローが入る。

しかし、桑本の精一杯のフォローを眼の前の女は、
無駄にしやがった。

みかんは手を後ろに回し、
腰にしまっていた赤銀の銃を俺たちに向ける。

「やる気かアンタ。」

俺はすぐさまダガーに手を回す。

空気が一変する。
相手は俺たちを受け入れる雰囲気ではない。

こう向かい合っているだけで、
ひしひしと殺気が伝わってくるから。

「当然。私は警察で貴方たちは犯罪者。
貴方と親戚でもないし。これが自然の行動だと思うけど。」

「確かにな。」

俺とみかんがにらみ合う。
そこに桑本が割ってはいる。

「みかんさん、落ち着いてよ。」

「黙れって言わなかったけ。」

「・・・・・・・・・・・・・・。」

桑本はほんとに黙り込み、
その場から引いていく。

みかんは不意に俺から目をはずしやっがた。

「貴方、女の子の方よ。どこかで見覚えあるわね。
たしか・・・・・・・・・。」

みかんは考え込む。
考えること数秒。

「思い出した。思い出した。私が殺した一家の子ね。
ただ一人、生かしといた。」

「もしかして・・・・・・。」

「そうよ。私よ。覚えてないかしら。
貴方の父親、母親、お兄さん、お姉さんを殺し、
貴方だけを生かしてあげた天使サマよ。」

「・・・・コロス・・。」

七倉が俺の隣で体を震わせながら、
ボソッといつもより低い声で呟いた。

「七倉、落ち着け。俺も手伝ってやるから。」

七倉のいつもと違う様子に俺は声をかけ、
七倉の肩に手を乗せた瞬間、

その手は強く弾かれた。

「邪魔しないで。」

七倉が俺を睨む。

七倉の眼は今までに見たこともないくらい鋭く、
今にも暴れだしそうな感じがした。

七倉の眼に確かに殺気を感じる。

でもそれは殺気なんてものじゃない。

殺気は今にも人を殺しそうな緊迫した気配のことを言うが、
その眼はもう気配ではない。

実体化しそうな感じだ。

七倉は金剛棒を持ち、相手を睨みつけている。
みかんは微笑を浮かべていた。

「バカな子。」

それを聞いた瞬間、七倉は地面を蹴り、
真っ直ぐにみかんに突進していく。

みかんは銃を構えたまま動こうとしない。
否、むしろ動かないでいる。

指はしっかりと引き金に触れているのに。

七倉は金剛棒を思いっきり振りかぶり、
真上から振り下ろす。

それをみかんは体をひねりかわす。
金剛棒が地面に突き刺さる。

コンクリートが弾け飛ぶ。

みかんはひねった回転を利用し、
七倉のわき腹にまわし蹴りを当てる。

七倉は一瞬、くの字になり、吹き飛び、
地面に倒れこむ。

七倉はすぐに金剛棒を杖代わりにして立ち上がろうとする。
するといきなり口から血を吐き出した。

回し蹴りが諸に入ったせいだ。

咳き込みながらも必死に立ち上がろうとする。
その姿はあまりに頼りなく必死だった。

みかんは近寄り、上から七倉の背中を踏みつける。
七倉は再び地面にへばりつかされた。

「貴方が私を殺せるとでも思った。無理よ、無理。
貴方がいくら頑張っても、貴方は私に殺されるのよ。二度もね。」

七倉の気持ちは分からない。

でも、両親を殺され、兄姉を殺された時、
七倉という人物は家族というもの失い、
一人になった七倉はあの時、殺されはしてなくても一度死んだんだと思う。

一人になり、親という存在をなくし、
兄弟をなくし、すべてを失ったんだと思う。

自分の心さえも。

だから、七倉は一回死んだんだと思う。

七倉の気持ちを考えていると、足が勝手に動き出た。
俺は気がつくとみかんに向かい走っていた。

ベルトからダガーを抜き、
みかんに刃を向かわせる。

みかんは俺の攻撃も焦りもせず、かわし、
後ろに引く。

俺はみかんと向き合う。
後ろから七倉の頼りない声が聞こえた。

「邪魔しないでって言ったでしょ。」

「邪魔なんてしないさ。俺はお前の思いを背おえるほど、
人間が出来てないしな。
でもその思いに肩を貸すことぐらいは出来ると思う。
だから、これは俺の肩をお前に貸してるだけだ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう。」

いつもの七倉の声が聞こえた。
なんだかほっとする。その声を聞いただけで。

でもその瞬間、俺の安堵をぶち壊す笑い声が聞こえた。

「あはははははぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ。
面白いは僕。私、貴方となら遊んであげても良いわよ。」

「じゃ、存分に遊んでもらうよ。」

七倉もゆくっりと立ち上がり、
俺の横に立ち、金剛棒を構える。

するとみかんは意外な人物に声をかけた。

「いつまでそこで観戦してるの愛。
貴方も参加したいんでしょ。」

後ろを振り向くと爆弾が三個飛んできていた。
七倉はまだ蹴られた時の痛みがあるのか、反応できていない。

俺はもう一本のダガーを手にとり、
飛んでくる爆弾を切断しに行く。

その向こうで桑本が微笑んでいるのが見えた。
やっぱり此処にくるまでに殺しとけばよかったと、
今になって後悔していた。

俺は爆弾の根元を切り、残った部分を次の爆弾が来るまでの時間、
ひたすらバラバラにした。

爆弾は爆発することなく、微塵となって地面に落ちていった。
笑っていた桑本の顔が急に驚きの顔へと変わった。

「なんで。何で爆発しないのよ。
何で生きてるのよ。」

「悪いな。お前の爆弾は普通に使われるやつとは違う。
それは、さっき見ててわかった。たぶん自分で作ったんだろう。
素人が作る爆弾は爆発原理がシンプルすぎる。
だから、順を追って破壊すれば爆発しない。
内職でやった仕事がこんなところで役に立つとな。」

桑本の眼が急に細くなり、俺を睨む。

「やっぱり貴方嫌い。」

「俺もだ。桑本。」

俺の横でようやく振り向いた七倉が、
今にも泣きそうな顔をしていた。

「どうして。どうしてなの。」

「どうして・・・・・。そんなの決まってるじゃない。
面白かったから・・・・・・・・・・・。
私が貴方たちの敵だとも知らないで仲間だって思っている感じが。
犯人扱いされてる事を深刻そうに話す顔が。
私を頼りきっているその態度が。
それに裏切られた時の貴方たちの顔見るのが楽しみで。」

七倉は俺の横で耐え切れなくなり、
真っ直ぐな涙を流していた。

桑本は大声で笑い出す。

「あははははははhはははhはははは。
その顔よ・・。その顔。面白い・・・。面白すぎる。」

「これで満足か。」

今度は俺が桑本を睨みつける。

「貴方はやっぱり嫌い。」

「黙れ。」

七倉はまだ涙を流していた。
七倉の気持ちが今は痛いほどわかる。
俺はそれを二回も経験していたから。

「行くぞ、七倉。俺はどんなことがあってもアイツを殺してしまう。
だから、七倉はアイツの事は忘れて、自分の決まり(ルール)を守れよ。」

「・・・・・・・・・・・。」

七倉は何も言わず、ゆっくりと頷いた。
俺はそれを見た瞬間、桑本に向かい走った。


@@@@@


「七倉は自分の決まりを守れよ。」

そう七倉には言って自分にも同じことを言った。
俺は俺を邪魔するヤツすべてのモノをコロス。

それが自分のルールなんだから。

俺は桑本に向かい走った。
桑本は相変わらず、にやついた顔で俺を見ている。

俺はその顔を二度と見ないためにアイツを殺す。
この世にその顔が存在しないために・・・・・コロス。

両手に持ったダガーをクロスさせながら相手に切りかかる。
桑本は俺のダガーの軌道を見切っていたのかしゃがんでダガーをかわし、
俺の右横に体を出す。


・・・・・・・・・・やばい・・・・・・・・・。


俺のいつも動かない脳がとっさにそう告げた。

桑本を見ると、右手に爆弾を持っていた。
爆弾はこんな近距離で使う道具ではない。

自分もただではすまないのにコイツは、
腕一本を俺にくれてやる代わりに俺の命を持っていこうしている。

桑本の手に向かいナイフを走らせる。
桑本は爆弾を離し、後ろへと下がる。

俺も瞬時に後方に飛ぶ。

二人の間で爆発し、煙が二人の姿を消す。

俺はダガーを構え、おそらく飛んでくるだろう爆弾に備える。
すると予想通り爆弾が・・・・違う人だ。

桑本が煙の中、しかも正面から現れた。
遅れまいと腕を動かし、ナイフを走らせる。

そこに桑本の手が伸ばす。
片手で俺の体を押す。

すると急に息が出来ない。
例えるなら鳩尾を思いっきり殴られた感じだ。

空気がすえない。

桑本の方を見ると、
桑本は腕から血を流しながらも平然と俺に近づいてくる。

傷は浅くないはずだ。
感触は確かにあったし、
血だって腕を伝ってペットボトルのキャップほどの血液を地面に垂らしている。

「・・・・ゾクゾクする。・・ゾクゾクする。」

言葉を口にしたいが口に出来ない。
しゃべりたくてもしゃべれない。

「苦しそうね。早く立って。ほんの少し体の酸素を抜いただけよ。
悪いけど、まだまだゾクゾクしたいのよ。」

そう言いながら桑本は爆弾を二、三個、
俺に向けてほおり投げた。

何とか呼吸が出来る。何とか体は動く。
足で地面を蹴り爆弾から離れるが遅かった。

爆風で壁に叩きつけられる。

また視界が煙に覆われる。
座ったままダガーを構える。

眼を凝らすとまた正面に影が見えた。

俺は立ち上がりダガーを仕舞い、ナイフに持ち替え、
ナイフをその影に向かい投げつける。

するとかすかに声がした。

俺はしまったダガーを持ち直し、煙りの中に走っていき、
その影に向かって線を四本走らせた。

煙が消えていく。
後ろを振り向くとそこには、
右腕を落とし切断面から夥しい量の血を噴出し、流す桑本がいた。

「あぁ、あぁ、あぁ、ぞくぞくする。あああああ。」

もう壊れている。
いや、前から壊れている。

友成の時と同じだ。
こいつはもう生きている価値さえない。

俺はダガーを強く握り、桑本に歩み寄る。
ダガーで横一線に一の字を描く。

桑本はそれをかわす事もしなかった。
桑本の服は破れ、腹の部分がぱっくり開き、
筋肉が見えていた。

ただそこには誤算があった。

桑本は俺に斬られながらも、
俺の体に左手を伸ばし、触れていたのだ。

さっきより苦しい。
俺はその場に膝まづいた。

今度はやばい。
鳩尾を叩かれたなんて優しいもんじゃない。

心臓が動こうとしない。
血液が体を廻らない。

体も今度は動かない。

「あはははは。いいね。いいね。いいね。
あははははは。ゾクゾクするよ。ゾクゾクする。」

腹からも血を流し、右腕をすでになくしてるくせに、
コイツの態度、言葉は一向に変わらない。

「どうしたのよ。もっと私を追い込んでよ。
今度は左腕でも切り落としてくれる。
考えただけでゾクゾクする。」

桑本は左腕を突き出しながら、
俺を挑発してくる。

俺の体には徐々に酸素が廻っていく。
少しずつだが、体も動いてきた。

俺は確実に動く事が分かる右手でダガーを握り締め、
桑本の左腕に斬りかかった。

「そうよ。そうよ。もっと。もっと追い込んでよ。
ゾクゾクするわ。あぁ、トマラナイ。」

俺はゆっくりと立ち上がる。

「もういい。終わりだ。」

「いやぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

急に叫びだした桑本は足に巻いていた爆弾のついたベルトと外し、
それごと俺に投げ、腰から爆弾を一つ取り線を抜いて俺に投げる。

俺は必死に体を動かし、ベルトをかわし、
桑本をすり抜け、壁の上に手を引っ掛けジャンプし、
壁を乗り越えた。

その瞬間、爆発。

その衝撃が壁の向こう側にいる俺の体にまで伝わってくる。
それはとてつもない衝撃だった。

よくこの壁が壊れなっかたと思うぐらい。
爆風が収まり、ゆっくりと壁の上にのぼる。

そこには誰もいない。

桑本自体も吹き飛んだんだろうと思い壁から降りる。
すると地面に着く前に地面に転がった足につまずき転んだ。

地面に倒れながらも、
顔を上げるとそこには・・・・・・・。

壁にもたれかかり、服が焼き焦げてなく、
皮膚が焼きただれ、体のいたる部分から血を流し、
右腕がなく、左肩もなく、下半身もなく、悪臭を漂わせる、
誰か分からない状況になった桑本がいた。

何故、分かったか。

それは七倉とみかんは、
爆風があったのにもかかわらずまだ戦っていたから。
七倉がみかんの弾を弾く音が聞こえてくるから。

こいつは桑本以外の何者でもない。

「ぞ・・・く・・ぞ・・く・・す・・る・・。」

こんな状況になりながらもまだ桑本は壊れていた。
友成とその姿が被った。

友成はこれほどまでではなかったが、
同じようなものだ。

「・・・ぞ・・・・く・・ぞ・く・・・す・・る・・・。」

もうこいつにはこの言葉しかないんだと思う。
俺はそいつにとどめを刺さずに背をむける。

俺が殺さなくてもいづれ死ぬ。
誰かが助けたとしても救われない。
もう俺の邪魔もできない。

だから俺は背を向け歩き出した。

「シネェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ。」

それが聞こえた瞬間、
振り返り飛んできた爆弾をバラバラにする。

桑本は最後に俺に向かって爆弾を投げやがった。
右手もない左足もない右肩もない下半身がないこいつが。

「悪いけど、お前のことはすべて分かる。
左手に爆弾を隠し持っていたことも。
同情して止めは刺さないつもりだったがもういい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・コロス。」

俺はダガーを仕舞い、ナイフに持ち替え、
ナイフを桑本の顔目掛けて思いっきり投げた。

ナイフは見事に刺さり、
桑本は口から泡を吹きながら白眼になった。

・・・・・・・・・・・・・それでもまだ小刻みに動いていた。

俺はダガーを握り、桑本に近づき、
その焼け爛れた首に刃を当てる。

当てただけで皮膚が、
まるでチーズのようにナイフにくっ付いてくる。

俺はそのまま首を切り落とした。

首が地面に転がり、そこからはまだ血が流れていた。
もう出尽くしたと思うほどの血を流していたのに、

まだ血が出てきている。

俺はその死体の傍に転がっていた爆弾を手に取り、
線を抜いて、死体にそっと置いて七倉の元へ走って行く。

走っている間に爆弾は爆発した。

背中に伝わる爆風には
血の匂いと人間を皮膚を焼いた臭い匂いが漂ってきた。

俺は七倉の背中に向かい走って行く。



@@@@@