部屋の中央に立っていたその少年は、
間違いなく桐谷君だった。

左手に包丁を持ち、
俺たちがあがってくるのを静かに待っている。

「七倉、頼む。手を出さないでくれ。
あの子とは、ケリをつけないといけないから。」

「だから、状況によるって。」

「いいから。」

俺は七倉を階段のところで無理やりまたし、
桐谷君と向かい合う。

桐谷君と向かい最初の出会いを思い出す。
アレは出会いというより殺し合いだったか。

そう、最初もこういう風に向かい合い、
いきなり走ってきた桐谷君に包丁で刺されて。

あぁ、あの時に能力を使っていた自分をほめてやりたい。
この勝負、どうあっても俺が勝つ。
それは決まっていて、揺るぎのない事実。

俺はベルトから一本になってしまったダガーを抜く。
俺は決して動かない。
それが決まりだ。いや決まっているんだ。
俺は片手にダガーを持ちながらも、動かず、桐谷君を見つめていた。

すると予想どおり、
桐谷君は俺に向かい猛スピードで走ってきた。
 
後はあの時に見た通り。

桐谷君は俺の眼の前で止まり、あの憎たらしいほどの微笑を浮かべる。
そして、包丁を俺の体に向かわせる。

しかし俺は桐谷君の包丁が刺さる前に桐谷君にダガーを突き刺した。
これまでにない極上の笑顔を向けながら。

そこで桐谷君は俺に寄り添うように倒れてきた。

それで終わり。

俺は桐谷君が倒れる前に刺さったダガーを抜き、
倒れる桐谷君を見送ることなく、
階段にいる七倉を呼ぶ。

「七倉、もういいぞ。早く行こう。」

その時、桐谷君は倒れた。
階段のところから七倉が顔を出す。

「うん。」

七倉は頷き、
俺のところに走り寄ってきた。

二人で倒れた桐谷君を見下ろし、
歩き出す。

後、数歩で次の部屋だと言うのに、
聞こえてはいけない音が後ろで聞こえた。

後ろを振り向くと、
そこには立ち上がる桐谷君がいた。

そんなはずはない。
確かにあの時はこれで終わったはず。

立ち上がることなんて絶対にない。
そんな事ある分けない。

俺の能力は相手の死ぬ前がわかる。
それはもう実行に移した。

なら死んでるはず。
何で立ち上がる。

そんな事があってはならない。
事実だった事が事実じゃなくなるのだから。

桐谷君はゆっくりと立ち上がり、
さっき見た笑顔とまったく同じ笑顔を俺たちに向ける。

それは俺への挑発にも見えた。
お前の能力なんてそんなもんかといわんばかりの顔つき。

俺はもう我慢できなかった。
殺したはずの人間が俺を挑発してくるんだから。

俺は顔を下に向け、
七倉にボソッと言った。

「七倉、俺に触れるなよ。」

「何、聞こえないよ。」

「俺に触れるなって言ったんだよ。」

俺は大声でそう言い放ち、
耳につけたピアスを取り、地面に叩きつけ走り出す。

俺の能力は死前。
相手の死を勝手に作り出すこともできる。
なら、それで桐谷の死を俺が決めてやる。

俺は片手に持ったダガーを握り締め、
桐谷に全力で向かっていく。

桐谷は動かず、微動だにしない。
立場がまるで逆転した。

でも俺は相手の前で止まるような、
ふざけた真似はしない。

そこまで行ったのなら、
この手を差し出し、相手を殺す。

相手の前、ダガーを振れば、
当たる距離まできた。

そこで桐谷が動いた。

包丁を俺に向かい投げた。
俺はダガーで包丁を弾き飛ばし、
桐谷に斬りかかる。

しかし、その一撃は見事にかわされ、
桐谷の前蹴りが俺の体を壁へと叩きつけた。

衝撃で口から血が出る。

その間にも桐谷は俺が弾き飛ばした、
包丁を拾いに行く。

包丁を拾い、
俺に最後となるだろう一撃を放ちに来る。

全力で走り、俺へと向かって来る。

桐谷は俺の前でまた止まった。
しかし、そこから動かない。

桐谷の顔が引きつる。

「ははははははははは。」

俺はつい大声で笑ってしまった。
相手が何もきずいていない事に。

俺はゆっくりと立ち上がり、
桐谷の顔目掛け、ダガーを想いっきり突き刺し、
ダガー越しに、桐谷を殴り倒した。

それで今度こそ終わった。

倒れる桐谷の顔からダガーを抜く。
抜いた瞬間、顔から血が噴出す。

そこに七倉が駆け寄ってきた。

「大丈夫なの。」

「あぁ、すべては俺の自作自演なんだから。」

「どういうこと。」

「桐谷が俺に蹴りを入れるときに、
足に触れといたんだよ。そして俺の想像した桐谷の死がこれだよ。」

「だから、桐谷君、仁くんの前で止まったの。」

「そういうことだ。行くぞ。」

俺は七倉を置いて歩き出す。
実はそんなに余裕でもないからだ。

さっきの蹴りで手術の傷口が少し開いた。
それに加えて、全身打撲の上にあの衝撃。

しかし顔には出さず隣の部屋に行く。
七倉に邪魔されたくなかった。

自分のルールを守るために。

そして部屋のドアを開ける。



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ようやく眼が覚めた。

ぼやけた目で辺りを見回すが仁くんや光ちゃんの姿はない。
どうやら一人、置いていかれたらしい。

手術台に背をまかせ、
座り込みながら、顔を下に向ける。

なんだか自分が情けなくて・・・。

仁くんや光ちゃんは自分より年下なのに、
年上の俺が気遣われている。
本当なら俺は逆の立場にいなければならないのに。

年下に気を遣ってもらっている自分が情けなて・・・。

最後にいるのが自分の親と言うのも情けなて・・・恥ずかしい。


俺はどうしてこんなに・・・・・・・・。


自分に厭きれながら、顔を上げる。
此処でこうしててもいけない気がした。

仁くんや光ちゃんが俺に気を遣っているのに悪いが、
親の死ぐらいはちゃんと受け止めなければ。

そう想い、重い体を上げる。

立った瞬間にSAPの玄関とも言えるドアが開いた。

ドアを開けた人物は背中に月光を浴び、
SAPのローブを着て、フードを被らず現れた。

「じ・・・・・・。」

名前を言いかけて止まる。
そこにはいないはずの人物が顔を出したから。

「アンタが森拓海か。
初めまして、鏡崎 仁です。」

一瞬だが相手の言葉を鵜呑みにしてしまいそうになる。
その人物は声、眼の色、顔の形、身長、格好、すべてに置いて、
此処にはいないはずの仁くんにそっくりだったから。

まるで夢でも見ている感覚だ。

しかし我に返り、自分の勘違いを指摘する。
仁くんは俺のことをアンタとは呼ばない。
それに仁くんがいるなら光ちゃんも一緒のはずだ。

とっさに言い返す。

「嘘だね。」

「何がだよ。」

「本当の仁くんなら二階にいる。
それに仁くんなら初めましては可笑しい。
君は仁くんじゃない。」

「はははははははははっは。
ばれてるのか、ならしかたねぇ。」

「誰だい君は。」

「名前はない。
しいて呼ぶならナンバー0、プロトタイプかな。」

「・・・・・・・・・・。」

言葉に詰まる。
ナンバー0、プロトタイプ。
意味が解からない。
何を言っているのか、何が言いたいのかも。
でも、何故だか知らないけど、
コイツから感じる嫌な感じだけはわかる。

「何の事かわからないらしいな。
それでもいいや。お前に用はない。
用があるのは俺を作ったアンタの母親だ。」

作った。新しい男が出来て生まれた子。
そんなはずはない。俺の親は一切外に出ていない。
いつでも此処にいる。
頭が痛い。理解できない。


仁くんに似ている事。
作られたと言う言葉の意味。


俺がそんな事を考えていると、
ソイツは俺の横をゆっくりと通りすぎる。

今は二階の状況がわからない。
そんな状態でコイツを上に行かしてはいけない。
俺はとっさにそう想い、
動かない体に命令し、
振り向き、腰から銃を抜く。

銃を抜き撃とうとした瞬間、
引き金を引くはずの指が止まった。

俺の体にはナイフが突きつけられていた。
距離が空いてたはずなのに、振り向いた瞬間に、
その距離は詰められていた。

「動くな。死ねぞ。」

「どうかな。」

足を瞬時に蹴り上げる。
それを相手は何事なくさらりとかわし、俺の手を斬り刻む。

両腕からは血が止まる事なく流れ、
上げた腕が自然と下がっていく。

「だから動くなって言ってやったのに。
聞き分けのないやつだな。」

「どうする気だ。」

自分のことより、
コイツが何をしでかすかきになってしかたなかった。

「いわねぇよ。」

「なら、止める。」

「そのボロボロ体でか。なめんなよ。」

そう言うと、いきなりソイツは、
自分の腕にナイフを突き刺した。

意味が解からないその行動が。

次の瞬間、いきなり俺の腕からは血が噴出し始め、激痛が走る。

「どうだ。何なら次は足でも刺すか。」

どうなってる。理解できない。
アイツはただ単に自分の腕を刺しただけ。
それなのに、アイツの腕と同じところから血が出て、激痛が走る。
俺はゆがんだ顔でソイツを睨む。

「混乱しているようだな。無理もない。
これが俺の能力、呪いだ。」

「呪い。」

「そう相手に触れることなく俺の視野にはいるすべての人間が
俺と同じ痛みを感じ影響を受ける。これに例外はない。」

「じゃ、オマエの視野に入らなければ良いだけの話しだな。」

「そうだな。でも今のアンタには無理だと思うぜ。」

確かに。俺の体はすでにボロボロ。
瞬時にコイツの背後に廻るなんて事できるわけがない。
そんなことをしなくても銃をぶち込めば終わりなんだが、
構えた瞬間、コイツはまた自分の腕を刺すだろう。
そうなれば、完璧に勝ち目はない。
何もしていない今でさえ、血が出すぎて貧血で倒れそうなに。

こんなときに・・・・・。

自分のことがさらに情けなく思えてきた。

「降参って顔だな。安心しな。アンタは殺さねぇ。
俺の目的はアンタの母親だからな。だから、邪魔だけはするな。」

そういうとソイツは俺に背を向け、
二階へ続く階段へと足を運ぶ。

俺はただソイツの背中を眺める事しかできなかった。
腕は上がらないし、立って銃を構える事も出来ない。
ましてやアイツを殺すことなどもってのほかだ。

すると突然ソイツが足を止める。

「やっぱり、止めだ。気がのらねぇ。」

そういうと、階段へと向かっていた体を180度回転させ、
こっちに戻ってくる。

「悪いけど、帰るわ。表に人もまたしてるしな。
じゃなぁ。タクミ。」

俺は無言でソイツを見送る。
ますます、意味がわからない。
コイツの存在自体、意味がわからないのに、
コイツの行動すらわからない。

ソイツは開いたドアを通り抜け、
表に待たしていると言う人間に「だるいから帰るぞ、ヒカリ。」と、
言って二人の靴音が離れていくのを聞いた。

本当に帰って行ってしまった。
何だ今の。
自問してみるが、答えなんて出るわけがない。
それにヒカリってまさか光ちゃんも外にいたのか。
何を考えてもわからない。頭を掻き毟り、深呼吸して落ち着く。
すると安心したのか、ため息が出、その場に倒れこんだ。

本当に意味不明。

それより何か忘れているような気がした。
仁くんに光ちゃん。もちろん本物。

地面を這い蹲り、痛み止めがある部屋の端の棚に向かう。
痛み止めを探し当て、

一本、

二本、

三本、

と自分の体に打ち込み、飛んでいきそうな意識を必死につなぎ止め、
痛みを感じなくなった体を壁沿いに動かし、二階へと向かった。






真実を確かめるために。