ドアを開けた。

その瞬間、体に何十というメスが、
避けることも出来ず体に刺さった。
しかし倒れずドアの淵に手を掛け持ちこたえる。

顔を上げ、正面を睨む。

正面には一人の白衣を着た女医が、
偉そうにソファーに座っていた。

ソイツは俺の顔を見るなり、

「死んでなかったんだ。」

何てのん気な感じで話しやがった。
七倉が俺の顔を覗き込み、
何か言っているがもう俺の耳には届かない。

俺の中には前にいるあの人間を殺す事しかなかった。

「・・これで・・・終わりだ・・・。」

「まだ始まってもないのに。」

コイツの一言一言が癇に障る。
頭に血が異常な速度で昇っていく。

俺はダガーを握り、ドアの淵から手を離し、
ナイフを抜く。

そして、相手に向かい真正面から、
全力で向かっていく。

なのにソイツはソファーから立とうとしない。
懐からメスを出し、俺に向かって投げ続けるだけ。

メスは足、股、腕、手、頬、顔、体、
あっちこっち掠りながら飛んでいく。

何回、転びそうになっただろう。
たった十メートルぐらいの距離を走っているだけなのに。

体からは血が流れ出ている。
そんな事、気にも止めず、
ただ全力で走り、一撃を繰り出した。

しかし、その一撃は当たる事はなかった。

森は飛びあがりメスを投げ、俺の背中にメスを付き立て、
華麗に地面に着地する。

俺は自分で止まる事も出来ず、
そのままソファーにぶち当り、ソファーごと転倒する。

「あら、もうお仕舞い。」

すると後ろにいた七倉が森に向かい、
金剛棒を振り下ろす。

森はそれもかわし、飛びながら、
メスを放つ。

七倉はそれを金剛棒で弾き落とし、
森に向かい飛躍する。

七倉は空中で金剛棒を二、三度、振り回すが、
一回たりとも森に当たる事はなった。

二人とも着地し、睨みあう。

七倉は飛び上がり、
上から下に叩き落とす棒撃を放つ。

森はそれを避けず、
素手でそれを受け止める。

七倉は地面に足をつけず、
棒に体重をかける。

森はそれにも動じず、
それをそのまま状態を維持し、保ち続ける。

七倉は棒に体重をかけた勢いを利用し、
棒をばねにし、森に手を伸ばす。

その瞬間、森は金剛棒から手を離し、
七倉が伸ばした手に懐から出したメスを突き刺す。

七倉の伸ばした手は、そこで止まり、
ようやく床に足を着け、金剛棒を掴みなおし、
森に向かい棒を放つ。

森は軽々とその攻撃をかわし、
七倉と距離をあける。

俺は手に持つダガーを森に向け、
必死で投げた。

森は振り向き、ダガーをメスで弾く。

「七倉。」

大声で叫んだ。
七倉もその気でいたのか、
俺が叫ぶよりも早く走り出し、
森に向かい金剛棒を振りかぶっていた。

森は振り向くのが遅かった。
森が振り向くよりも早く、
七倉の金剛棒が森を捉えた。

なぎ払われた森は左側の壁に叩きつけられ、
めり込んでいった。

七倉は警戒しているのか、
まだ金剛棒を構え、その壁を見据えている。

とうの俺は立ち上がることすらもままならない状態。
自分で背中に刺さるメスを抜き、
ゆっくりと立ち上がる。

すると森がめり込んだ壁からは何十、いや何百という
メスが空中に浮遊し、俺たちに向かい飛んでくる。

七倉はかわせても、
俺にこれほどのメスを避けることは出来ない。

諦めかけたその時、
ドアの方からメスに匹敵する数の銃弾が飛んできた。

それはすべてのメスを弾きながら落とし、
壁を貫通していった。

ドアのところには、
体から血を流しながらも、
両手に銃を構え、放った拓海が立っていた。

「俺を置いて行くなんて酷いんじゃないの。」

拓海はそう言い放った後、
静かにその場に倒れた。

「拓海。」

「拓海さん。」

七倉と俺は声を合わせ、拓海の名前を読んだ。
しかし、返事はなく、起き上がる事もなかった。

聞こえてくるのは、気色悪い笑いの声だけ。
それは壁にめり込みながらも何百というメスを投げた森のものだった。

森は壁から出て、メスを構える。
頭から血を流しているが、
全然効いてないらしい。

七倉は顔の表情を歪める。

それはそうだ。
七倉にとっては必殺の一撃のはず。

それを諸に食らっても立ち上がり、
まだ、戦う気でいるのだから。

森は構えたメスを七倉に投げつけ、
七倉に向かい走り出す。

七倉がメスを弾いている間に、
森は距離を詰め、再びメスを握る。

森はメスを指の間に挟み、
まるで長い爪で相手を切り裂くかのように七倉に斬りかかる。

七倉も必死で防いでいるが、
森の動く早さは能力者の中でもずば抜けて速い。

七倉の体はあっちこっち切り裂かれていく。

七倉が反撃に出る。
森はそれを軽くかわし、後方に下がり際、
手に挟んでいたメスを投げ放つ。

何とか弾き飛ばすが、七倉も相当、辛そうだ。
当たり前だ。

七倉は十時間ぐらい前までは、
みかんと戦っていた。

しかも出血多量で倒れた。
それが今、満足に戦えるわけでもない。

さっきの一撃だって本当だったら森は立てないだろう。
それほど七倉も弱っている。

拓海はたぶんこのまま眼を覚ます事もないだろう。

俺は立ち上がり、
両手にナイフを握り締めた。

七倉はかろうじて立っているが戦力にはならない。

此処は俺だけで決める。
もとはと言えば、これは俺のルール。

俺が自分で決めたこと。
俺の邪魔をする、邪魔となる存在を消す。

それが俺が自分の中に勝手に作ったルール。
だから、これを守るのは他の誰でもない。

俺だ。俺しかいない。

それにルールなんて他の誰かに守ってもらうものでもない。
自分が守らないと。

結論は出た。
俺は自分の自分にしか守る事、

自分にしか教養できないルールを守る。

俺は森に向かい走り出す。
森は俺のことなど気にも留めず、七倉を見据えている。

それはそうだ。
死にそうになっている俺より、森にすれば七倉の方が強敵。

俺は飛び上がり、
森に向かいナイフを放つ。

森は懐からまたメスを取り出し、
メスで弾き、それを俺に投げる。

俺は空中でメスを弾く。
そのまま空中から森に斬りかかる。

森がようやく俺の方を見た。

森はメスを握り、
俺のナイフと交差させる。

俺は地面に着地し、
さらに森に向かいナイフを放つ。

森はそれを綺麗に受け流し、
俺にメスを突き立てる。

そこで俺は止まってしまった。
正直限界だった。

突き立てられたメスは、
心臓の横すれすれに刺さっている。

メスが刺さっているにもかかわらず、
メスを伝い血がしたたり落ちる。

「もうこれで最後。」

森はそう言い放つと、
メス何本も誰もいない空中に向かい投げ始めた。

何十、何百というメスが空中に浮遊する。
それで、解かった。

またアレがくる。

もうアレを防げる手段はない。
拓海はもう起き上がれないし、
七倉は金剛棒を杖代わりにしながら、
かろうじて立っている程度。

しかもその標的が俺と七倉。

迷っている暇はない。
俺は七倉に向かい走り始めた。

森はなにやら呪文らしきものを唱え始めた。

「空に浮遊する凶器よ、
我の命に従い、そこに存在するものを貫け




 ・・・・・レインズデス・・・・。」




そう唱え終わると浮遊するメスが、
俺たちに向かい降り掛かってきた。

俺は七倉の前に立ち、
大の字になり、七倉をかばった。

全身にはメスが所狭しと並び、
俺を突き刺していた。

後ろから声がする。

「何で、何でかばったのよ。」

その声には怒鳴り声と泣き声が混じっていた。

「なんでって、おれは七倉に、
肩かしてもらってるだけだからだよ。」

俺の後ろで七倉は泣き叫んでいる。

森は再度、懐からメスを取り出し、
俺に向かい投げる。

すると七倉が俺の前にすっと出て、
メスを弾き飛ばした。

最後の声を振り絞る。

「七倉、最後の頼みがある。」

七倉は俺の言葉に返事もせず、
まだメスを放つ森を睨んでいる。

「俺に能力を使え。」

「そんなことしたら、
仁くん・・・・・・。」

「最後の頼みだって言ったろ。
それに・・・・・・・・」

少しの沈黙をおき、
こう伝えた。



「俺のルール、・・・・・・守らしてくれ。」



そう言った瞬間、七倉の眼からは、
涙がとめどなく流れ始めた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・わかった。」



七倉はメスを想いっきり弾き飛ばした後、
自分のネックレスを引きちぎり、
森に背を向け、俺へと手を差し伸べた。

七倉が触れた瞬間、俺の創造した状況が
そこには広がっていた。

俺の体からはメスが嘘のようになくなり、
片手にはないはずのダガーが握られていた。

眼の前には七倉がいる。
心配そうな顔をして俺を見ている。

俺は七倉に笑顔を向け、
その向こうにいる森に向かい歩き出す。

森はなんだか冷静でいる。
どうやらこの状況を何となくでも把握しているらしい。

森が近寄る俺に向かいしゃべりだす。

「どうゆう状況かはしらないけど、
私はどうあっても死ぬみたいね。」

「それにしてはやけに落ち着いてるな。」

「落ち着いてるも何もないわよ、
手は動かない、足も動かないじゃ、
どうしようもないわよ。」

「そうだった。状況ぐらい説明してやろうか。」

「時間があるなら、そうしてもらえる。
何もわからないまま死んだんじゃ悔いが残るし。」

「そうだな。俺が七倉の力を借りて想像したのは、
簡単だ。お前に俺はもう触れていると想像しただけだ。」

「何で七倉さんの力で私を殺さなかったの。」

「これは俺の手で終わらしたかったからだよ。」

「そう。ならいいわ。早くやりなさい。」

「言われなくても。」

俺はダガーをこれ以上ないと言うほど強く握る。
そして、ダガーを森の心臓に目掛け突き刺す。

森は倒れることなく立ちながら、
口から血を吐く。

眼が微かに動いている。
唇も震えている。

まだ死んでないらしい。
最後ぐらい一撃で終わらしたかったが、
そうもいかないらしい。

俺はダガーを一度抜いた。
森の血が俺を赤く染めていく。

俺は血の出るそこを手でこじ開け、
再度、ダガーを突き入れた。奥まで。

そこで森は死んだ。

森の体で動いてる部分なんかどこにもない。
これでようやく終わった。

視界が戻っていく。
しかし俺はそれを見る前に、森の前で倒れてしまった。

倒れたというのは間違いだ。
だって俺には意識すらもうないんだから。


@@@@@


私よりも早く、私を殺した人間が倒れていく。
何か矛盾している。

私はコイツに殺されたのに、
私よりも先に死んだ。

でも私ももうすぐ同じ状況になる。

女の子が男の子に駆け寄り、
眼から大粒の涙を流している。

その状況を最後に私もとうとう死んでしまったらしい。

眼の前に見えるのは、
終わりのない闇。

暗くて、眼が見えているのか、見えていないのか、
わからなくなるほどの闇。

私は全身の感覚を無くし、
その中をふわふわと漂っているようだ。



何もない。



何も見えない。



何も聞けない。



何も匂わない。



何も触れない。



何も出来ない。



これが死なんだとようやく理解できた。
私はその中をなんだか気持ちの良い感じで漂っていた。

自分の中に何故かある罪悪感を感じ、
本当にただ漂っていた。

何故だか知らないが私の中に罪悪感がある。
悪い事をした覚えもないのにただ罪悪感がある。

生きてた時にはなかった罪悪感が、
死んでから生まれた。

矛盾している。

でも、それもいい。
私は死んだ。死んだからこそ生まれた罪悪感。

私はこの罪悪感だけを抱き、
この先、永遠、此処にいるのだから。

だというのに私に「起きろ、起きろよ。」、
なんて生意気な口を利く声が聞こえる。

でも、無視。
私には関係ないから。

しかし、その声はわずかばかりでも、
聞き覚えのある声だった。

その声は次第に大きくなっていく。

私はそれでも無視をした。
此処にいるのは楽だし、もう元に戻りたいとも想わない。

その声は私を挑発し始める。

それでも無視をする。
死んでせっかく生まれた罪悪感を大切にしたい。

その声は私を罵倒し始める。

無視できない。
何んかムカつく。

此処にいたい気もするが、
あそこまでバカにされると腹が立つ。

深呼吸を一回して、
大声で相手を侮辱しようとした時、
・・・・眼・・・が・・・開いた・・・。









私は何故か病院の病室で倒れていた。
辺りを見回す。

そこには見覚えのあるものばかり並んでいた。
子供を入れる箱に、私の傍に散らばるカルテ。

辺りを見回していると、
ドアのところで眼が止まった。

ドアのところには二人の男が、
こちらを見て、クスクス笑っている。

私をバカにしてたヤツだとわかった。
文句でも言い返そうとしたが言葉が詰まってでなかった。

私を挑発し罵倒していたのは、




私を殺して死んだはずの
鏡崎 仁と鏡崎 翼だった。





「お目覚めはいかがですか。森先生。」

「見て解からない。最悪よ、最悪。」

「じゃ、もう一回寝てもらいますか。」

「兄貴、寝るんじゃないだろ、死ぬんだろ。」

何故かそこで兄弟喧嘩が始まる。

「どっちでも一緒だって。起きるか起きないかなんだから。」

「もう良いよ。俺がやる。
森、アンタには悪いが死んでもらう。」

「どうゆう状況か解からないけど、
殺させるのね、貴方に二度も。」

「おかしなこと言うなよ。
俺はまだアンタを一度だって殺した事はないぜ。
夢でも見てたんじゃねぇの。」

「そうかもね。もしよければ、
状況を説明してもらえる。」

「無理。時間がないから。」

「そう。残念ね。」

「状況は夢の中でゆっくり考えてくれ。」

そう言い鏡崎仁は私の体に、
使い慣れたダガーを突き刺した。

そうして、私は本当の死を迎えた。
そこには罪悪感なんてない虚無な世界が広がっていた。


@@@@@@


森清子の心臓に使い慣れたダガーを突き刺し、
初めて俺は森を殺した。

森からダガーを抜き、
ベルトにしまう。

「行こうぜ、兄貴。
俺たちがいないと下で戦っているヤツが辛いだろうからな。」

「そうだな。」

俺と兄貴はその病室を飛び出し、
一階下のフロアに行く。

そこでは・・・

・・・・親父・・・・

・・・・拓海・・・・

・・・・友成・・・・

・・・・クリス・・・・

・・・・桑本・・・・

・・・・七倉・・・・

が政府に雇われたやつをボコボコに殺していた。

俺たちもそこに加わりにいく。

状況を説明すると・・・
俺たちは(親父を除く)、森の病院に幼い頃連れてこられ、
森の能力、来世放浪という幼い子供にその子が望む未来の姿を見せ、
その世界から抜け出せなくなる能力を受けるはずだった。
しかし、能力は生まれながらにして持っているもの。
拓海や俺、友成、クリス、桑本、七倉が触れられる前に、
兄貴が一番最初に触れられてしまった。
兄貴の能力は、能力の中でも例外中の例外な能力。
反射だ。相手の能力を受けずにそのまま相手に能力を返す能力。
森はそれを知らずに兄貴に触り、
能力を自分で受けてしまった。
そして、その後親父が俺たちを助けに来てくれた。
親父は能力者を良いように使い、殺す、
政府を倒すべく、能力者集団、SAPを立ち上げた。
そしてそのさきがけに森を殺しにきた。
そう言うわけで、俺たちは此処で政府の連中に雇われた人間を殺している。

兄貴が拓海の傍に行き、
周りのやつらを素手で蹴散らしながら、拓海に話しかける。

「拓海、お母さんに会って来なくて良いのか。」

「会いたくもないよ。」

拓海は意外と冷静だ。
拓海には母親を殺す事を告げている。

此処に来る前にも、俺が同じような質問をしたが、
返ってくる言葉は変わりない。

「なら良いけど・・・・・。じゃ例の一発、頼むわ。」

「お前は親父さんと違い、俺をよく使うな。」

「いいじゃん、いいじゃん。」

「友成くん、愛ちゃん、クリスくん、下がって。」

「「「はい。」」」

三人とも同時に返事をする。
拓海が前で戦う、友成と桑本を呼び、
援護をしながら後ろに引かせる。

「七倉、大丈夫か。」

俺は親父の横で戦っていた七倉のところに行き、
七倉の周りにいる雑魚を蹴散らす。

「うん。平気。」

すると友成が俺のそばにかけよってきた、

「仁、遅いぞ。何してたんだよ。」

「役割を果してきただけだよ。
それより、準備しろよ。拓海が撃った後、飛び出すぞ。」

「任せろって。」

「じゃ、行くよ。」

俺たちは拓海が放った後、一斉に走り出した。




END