俺はここ日本で生を受けた。 生を受けて18年。 これまでいろんなことをしてきた。 サッカー、 野球、 バスケ、 バレー、 バトミントン、 水泳、 習字、 そろばん、 塾、 ピアノ、 ギター、などなど。 本当にいろんなものを経験してきた。 でも、しっくりくるものなんて一つもなかった。 夢中になれるものなんて一つもなかった。 だから、俺はこの冬に「何か」を見つけたい。 この冬、18の最後の冬に「何か」を見つける。 そう目標を立て、12月の最後のテストを受けながら、 雪の降る外を眺めていた。キーン、コーン、カーン、コーン。 「そこまで。テスト用紙を裏向け、後ろから集めなさい。」 担任でもない先生が偉そうに指示を出す。 誰も文句も言わずに、後ろからテスト用紙を回収していく。 先生はそれを束ね、脇に抱えながら教室を出て行く。 入れ替わりに担任が入ってくる。 教卓に立ち、大きな声を出す。 「皆、明後日から冬休みに入るけど、 まだ受験を控えている人もいる。 自分が終わったからと言って、他のヤツを遊びに誘わないように。 いいな。じゃ、ホームルーム終わり。とっとと帰れ。」 俺はすでに受験は終わっている。 指定校推薦で勉強もせず、行く大学が決まっていた。 俺はかばんに筆記用具だけを入れ、 教室を後にする。 「京谷ー。」 塚本京谷 それが俺という人物の名前 名前を呼ばれ振り向くと、幼馴染の古谷卓也が微笑みながら、 俺に近づいてきた。 「何だよ、卓也。」 「何だよじゃねぇよ。いつも一緒に帰ってんのに、 なんで一人で先に帰ろうとするんだよ。」 「用事があるんだよ。今日は先に帰るわ。」 「マジかよ。じゃ、今日は寄り道できないのか。」 「悪いな。」 「仕方ないな、また。」 卓也はそう言い、手を振りながら、 他の友達の元に走っていった。 いつもなら卓也と二人で古本屋によって、 長時間立ち読みをして帰るが、今日から俺は冬休み。 明日、終業式があるが、校長の長たらしい話を聞いてる時間はない。 俺は今日から見つけなきゃいけない。 「何か」を。 夢中になれる。 「何か」を。 俺はこれがしたいという。 「何か」を。 だから、俺は急いで校舎を出た。 外に出るとテスト中に降っていた雪は止んでしまったらしい。 自転車置き場に行き、黒のママチャリにまたがり、 家に向かいできるかぎり早く家に帰った。 二十分ほどで家に着き、家の前に自転車を止めずに投げ出し、 家のドアを開ける。 ただいまも言わずに靴を脱ぎ散らかし、 自分の部屋に向かって走っていく。 部屋に入り、かばんをベットに投げ出し、 制服も着替えず、机の椅子に座る。 そして、机の中にしまっていたさらのノートを広げ、 ペン立てに入れていたシャーペンを握る。 さらのノートにシャーペンを走らせる。 書く内容は、18年間生きてきてまだしたことないことを書く。 さらのノートを未経験の名前で埋めていく。 書いている途中で不意に部屋のドアが開いた。 「帰ってたんなら、ただいまぐらいいいなさい。」 「ごめん。今、いいとこなんだ邪魔しないで。」 「はい、はい。」 と言いながら、あきれた顔をして母が部屋から出て行った。 俺は母が部屋から出て行った後もノートにペンを走らせる。 未経験の名前をひたすら書き出していく。 さらのノートを半分ぐらい使い、 ようやく書ききることが出来た。 気がつくと周りは暗くなっていた。 それに気がつかないほど、夢中で書いていた。 すると、ドアの向こうから、 「ご飯よー。」 と言う声が聞こえてきた。 ノートにシャーペンを挟みとりあえず、 服を着替え、家族のいる食卓に向かった。 家族でいつもどおりの夕食を食べる。 俺は食べ終わると、すぐさま自分の部屋に戻った。 椅子に座り、ノートを広げる。 やった事のないものを書きなぐったノートを見て、 見直して見ると、内容が同じで名前が違うものが多々あった。 しかも自分で書いたのに、醜い。 とりあえず、ため息をして整理する事にした。 まずは類似しているものを一つに絞る。 そして、分類わけしていく。 項目は、スポーツ系、勉強系、遊び系、お金系、性欲系、犯罪系。 スポーツや遊び、性欲と書いてみたものの、 一人で出来るものが少な過ぎる。 でも俺は18最後の冬にやった事のないことをしたい。 「何か」を見つけたい。 そのためにこの問題の解決策を思案する。 スポーツと遊びは、卓也に頼み込めば、 何とかなる。 問題は性欲。 こればっかりは俺がオカマでもない限り、卓也には頼めない。 ここで断言する。俺はオカマではない。 だから、純粋に女の子が好き。 でも、問題は俺が女の子と付き合ったことがないということ。 つまり童貞。 これが一番の問題。 しかし、解決策はふっとすぐに沸いてきた。 答え。出会い系。 これしかない。 もう、これしかない。 そんなことをノートに書きとめ、 今日はもう寝る事にした。 明日から本番だし。 次の日、朝7時に眼を覚まし、 早速、ノートを広げる。 スポーツの分類に眼を通し、 かばんにノートをぶち込み、朝食を食べに行く。 朝食をゆっくりと食べ、私服のまま学校に行った。 学校に着いたのはよかったが、 今日が終業式という事をすっかり忘れていた。 校門の前で座り込み、 卓也が出てくるのを待った。 10時ぐらいになり、ようやく生徒たちが校舎から出てきた。 校門から出て行く生徒の中で卓也を探した。 すると一つの集団から俺を呼ぶ声が聞こえた。 「京谷ー。」 その集団の中から卓也が手を上げ、 俺の方に向かって走ってきた。 「よぉ。」 俺も手を上げ、返事をする。 卓也は俺の前に来て、不思議そうな顔をした。 「なんでオマエ此処にいるの。今日は休むんじゃなかったのか。」 「卓也、頼みがある。」 「その前に俺の質問に答えろ。」 「オマエに用があったから来たんだよ。だから、頼みがある。」 「何だよ。」 「今日、今からオマエの時間を俺にくれ。」 「どうゆう意味だよ。」 俺はこの冬休みにやろうとしている事を、 一部だけだが卓也に話、頼み込んだ。 「仕方ないな。でもやるからには手は抜かないぜ。覚悟しとけよ。」 「あぁ、ありがとう。」 そして俺と卓也と他の連中で、ただひたすら動きまくった。 日が暮れるぐらいまで。 家に帰る頃には体中、 ボロボロで家のドアを開くのでさえ苦痛に思えた。 卓也のヤツ、手加減ってものを知らない。 めちゃくちゃやりやがった。 家のドアを開け、入り、 重い足を引きづりながら、自分の部屋に入り、ベットに横になる。 それからすぐに眠ってしまった。 体が揺れ、驚いて眼が覚めた。 眼の前には母。 「起きた。何時間寝てるのよ。アンタ。死んでるかと思ったわよ。」 「今、何時。」 「もう十時よ。朝ごはんどうする。」 「食べるからおいといて。」 「早くしてよ。かたずかないんだから。」 怒りながら母は部屋を出て行った。 俺はまた寝転ぶ。 体がやばい。昨日の疲れがまったく取れていない。 腕も足も腹も背中も、体のあっちこっちが痛い。 とりあえず、ベットから降りて、歩いてみるが、 歩くだけでも体全体が悲鳴を上げる状況。 机の椅子に手を伸ばし、椅子を捕まえ、 何とか座ることが出来た。 机の上に置きっぱなしにしてあるノートを開ける。 そして机の中にしまってあった黒のマジックペンを出し、 スポーツの分類に大きくバツをする。 卓也たちには悪いが、昨日やった初めてのスポーツの中に、 夢中になれるものはなかった。 もちろん楽しくなかったわけはない。 楽しかった。楽しかったが俺が探しているのは夢中になれるもの。 俺の中では夢中になれるものと楽しいものとは別物。 楽しいって事は夢中なんじゃないのと思われるが俺は違う。 だからスポーツの分類にバツをした。 ついでに遊びの分類にもバツをする。 実は昨日、帰り際になって、体力があり余っていたのか、 卓也に連れられ、遊びにも行った。 その中にもなかったので、遊びの分類にもバツをした。 スポーツにしても遊びにしても、 俺が見つけたかった「何か」はなかった。 ノートをめくり、次の分類を見ると、勉強と書いてある。 でも、さすがに今日は無理。 今の状況じゃ、全身が痛くて、勉強できないし、 集中できない。 とりあえず、ノートを閉じて、朝飯を食べに行った。 ご飯を食べ終わり、部屋に戻り、 ベットに横たわった。 今日は寝て、体を休ませる事にした。 明日のために。 しかし、何もせず、寝転がっているだけと言うのは、 意外に苦しいものがある。 それに考えなくても良いことが頭の中に浮かんでくる。 本当に俺が夢中になれるものがあるかということ。 マイナス思考にどんどん陥っていく。 俺はベットに寝ながらも、頭を振り、 マイナスの思考を振り払う。 気分が沈むのはよくない。 俺は「何か」を見つけるんだから。 俺は起き上がり、ベットから降りて、服を着替え、 気分転換をしに散歩に行く事にした。 体は痛いが、このままの思考じゃ諦めてしまいそうになる。 それを無くすために散歩に行く。 家を何も言わず出て行き、何処に向かうでもなく、 ただ歩いていく。何も考えず。 コンビニに寄ったり、公園で遊ぶ子供たちを眺めたり、 行きつけの古本屋の行ったり。 本にも飽き、古本屋から出ると、もう夕方になっていた。 腹も減り、ゆっくりと夕日を見ながら、家に帰った。 家のドアを開け、自分の部屋を開けるところで呼び止められた。 「コラ。京谷。黙って何処行ってたの。」 廊下の方を見ると、母が腰に手を当て、 いかにも怒っていますといわんばかりの感じで立っていた。 「ごめん。ちょっと近くで散歩してた。」 「じゃ行く時ぐらい、行ってきますって言いなさい。」 「わかったよ。俺、お腹減ってるからご飯できたら呼んで。」 そう言い、開けかけていたドアを開け、 自分の部屋に入る。 椅子に座り、リモコンでテレビをつけ、 「ごはーん。」の声が聞こえるまで見ることにした。 テレビをつけて、そう時間が経たないうちに、 「ごはーん。」 と言う声が聞こえた。 テレビを消し、居間に向かう。 いつもの夕食を食べ、一番に風呂に入り、 その日はすぐに寝た。 明日に備えて。 自然に眼が覚めた。 時間は八時。ベットから降りて、服を着替える。 体にはまだ痛みが残っているが、 昨日よりはだいぶマシだ。 服を着替え、椅子に座り、 ノートを広げる。 今日やるのは勉強。 勉強といっても、問題集や学校の宿題をやるだけ。 経験した事のないのは、無駄な勉強をすること。 一日中、勉強をすること。 今まではテストのためだったり、受験のためにやってきたが、 それほど真剣には勉強をしてこなかった。 授業中も寝てる事が多いし。 だから、今日一日ぐらいは、 今までした事のないぐらいに、勉強に励む。 朝ごはんを食べ、自分の部屋に戻り、 机の上に問題集やテキストを並べ、机に向かう。 今になって思うが、受験って大変。 今、英語をやり始めたばっかりだけど、 単語がわからない。 訳なんて出来るわけない。 単語すらわからないのに。 それでも諦めず、辞書を開きながら、 ひたすら問題を解いていった。 途中、休憩やご飯を食べたりしたが、 何とかすべての問題を終わらす事が出来た。 終わって思ったが、これは夢中になってやったと言うより、 ほとんど気合でやり遂げた気がする。 全然楽しくもないし、 ただひたすらに問題をやっただけ。 とりあえずノートを広げ、勉強の分類にバツをつけた。 勉強の分類にバツをつけた瞬間、何か一気に気が抜けた。 体は動かしていないが、違う意味で疲れた。 そのまま、ベットに寝転がり、 明日の事も考えず、寝てしまった。 気がつくとそこは何もない暗闇。 そんな中、俺は一人、その中に立ち尽くしている。 何もやる事がなく、何も考えられないその空間で、 俺はただ漠然と立ち尽くしている。 すると体のいたるところから、闇に同化し始める。 体をバタつかせ必死に体を蝕み始める闇を振り払うが、 振り払う手が、すでに闇に同化していた。 俺は何も出来ずにそのまま闇に食われていく。 体がなくなる寸前、その光景が消え、 眼が覚めた。 冬だと言うのに、体中に汗を掻きまくり、 服が汗でびしょびしょになっていた。 布団から出て、服を着替える。 時計を見るとまだ朝の五時。 またベットに戻り、寝る事にした。 「京谷、京谷。」 母の声が聞こえ、眼を覚ます。 「何?」 「卓也君から電話。」 「わかった。すぐ行くよ。」 「早くしなさいよ。」 そう言いながら、母は俺より先に部屋を出て行った。 俺もベットから降りて、部屋を出て行く。 廊下に置かれた電話に出る。 「もしもし、卓也。」 「もしもし、京谷。久しぶりだな。」 「三日前に会っただろうが。」 「そうだっけ。そんな事はどうでもいいだけど。 十二月二十五日にクラスでなんか集まろうって話があるんだけど、 京谷どうする。行くか。」 「パス。行く気しねぇし。」 「わかった。じゃそう伝えとくよ。」 「もしかしてそれだけか。」 「もち。」 「そんなんで電話してくんな、バカ。」 電話を切り、自分の部屋に戻る。 とりあえず、服を着替え、椅子に座り、 ノートを広げる。 今日はやる分類はお金。 お金といってもただギャンブルに挑戦しようと言うだけ。 大人になるとはまる人もいると言うんだから、 俺だって夢中になれるかもしれない。 服を着替え、財布にあり金、一万三千を入れ、 時計に眼をやる。 今は十時。ちょうどパチ屋が開く時間。 いつものようにゆっくりと朝飯を食べ、 母に「遊びに行ってくる」と嘘のような嘘じゃないことを言い、 家を飛び出していった。 近所のパチ屋でチャリを止め、 自動ドアをくぐり中に入る。 一番最初に感じたのは、この騒音のうるさい事なんのって。 次はタバコの臭さ。俺の親父もタバコ臭いが、比べ物にならない。 何とかその騒音、臭さに耐えながら、 適当に座る台を決め、台のところに千円札を投入した。 ・・・・・・ 投入して二時間ぐらい、 見事に全額持っていかれた。 楽しさも夢中も何もない。 ただ座りながら、弾をうってただけ。 今月のお金が一瞬にして消えた。 ため息しか出てこない。 仕方なく席を立ち、空になった財布に、 ため息をたくさん押し込め、店を後にした。 家に帰ると、母が洗濯物を抱え、 二階に上がるところだった。 「ただいま。」 「今日は帰ってくるの早いのね。」 「まぁね。」 そう言い、自分の部屋に戻っていった。 部屋に戻ってもため息が出た。 財布をベットの上に投げ飛ばし、 椅子に座り、ノートを広げる。 机の中から黒のマジックペンを出し、 お金の分類にノートからはみ出すぐらい大きなバツをした。 ノートをめくり、性欲の分類を睨む。 ノートには解決策と書いて、出会い系と書いていた。 でも俺はこの年でまだ携帯を持っていない。 別に無理に持つ必要もないだろうと、 母が買ったろうか言った時に、そんな浅はかな考えをしていたばっかりに、 今になっても携帯と言うものを持っていない。 でも、よく考えてみると、俺の部屋にはパソコンがある。 携帯がないのに、パソコンがあるという異様な状況。 とりあえず、深く考えないようにして、 パソコンの電源をつける。 パソコンを起動させ、インターネットにすぐつなぎ、 検索で出会い系と入れて検索した。 検索数を見て驚いた。なんと一千六百万ヒット。 ありえない。俺が世間知らずなだけかもしれないが、 俺の中ではありえない。一体どれだけの人間が出会いを求めてるんだ。 俺も人のことは言えないが、多すぎるだろう。 と思いながらもどれが良いか上から順番に覗いていく。 覗いていってもなかなか良いのがないので、 無料出会い系と検索を変え、検索する。 すると無料出会い系ハピネスと言うサイトを発見した。 中を覗いてみると、女の子の写メなどが載っていて、 見やすく、何か良い感じがした。 このサイトに決め、その中で自分がいる地域などを入力して、 自分好みの女の子を探す。 すると一人の女性に眼が止まった。 写メを見る限り、確実にタイプの女の人ではないが、 紹介文が俺の目を釘づけにした。 そこに書いてあったのは、童貞を捧げてくれる人には、 二十万を払います。童貞じゃない人でも十万あげる。 なんてことが書いてあった。 しかも、社長婦人。年は二十八。 家はそう遠くない。 俺は即こうでその人にメールを出した。 出したメールの内容は、 初めて、僕は十八の童貞です。顔はそれほど悪くないと思います。 僕の童貞を捧げますので、とにかく会って下さい。 と書いてメールを出した。 書いてすぐ返事が来ないことは分かっていたが、 それでも、待ちきれず、パソコンの画面と睨めっこしながら、 メールが来るのをひたすら待ち続けた。 しかしメールは一向に来なかった。 しかももう日が暮れてきた。 眼も疲れてきたので、パソコンをつけたままベットに寝転がる。 今になって思うが、そう、うまくいくわけがない。 さくらだって可能性だってある。 話がよすぎるし。でも、金のない今の状況と十八年間生きてきて、 女の子とやった事がないなんて辛い。 だから、微かな希望でもあるものでも飛びついてしまったんだな、 と今になって、冷静になった。 そこに、 「ごはーん。」 と母の声が聞こえてきた。 仕方なく、部屋から出て行き、ご飯を食べる事にした。 ご飯を食べ、風呂に入り、 自分の部屋に戻った。 髪の毛をタオルで拭きながら自分の部屋に戻ると、 つけぱっなしにしていたパソコンが黒の画面になり、 スクリーンセーバーの画面になっていた。 マウスを動かし、画面を元に戻すと、 メールが届いていた。 メールを開くとあの社長婦人からのメールだった。 メールには、 初めまして。メールありがとう。 今夜でもよければ会いましょ。 と書いてあった。 頭に乗っけていたタオルをベットの上に飛ばし、 急いで返事を書く。 今日の十時に○○駅のところでどうですか。 と書いて返事を出す。 するとすぐに返事が返ってきた。 わかったわ。じゃ十時にね。 と返事が来た。 俺は自分の部屋で声を押し殺し喜んだ。 これで俺は二十万を手に入れ、童貞を捨てることが出来る。 まさに一石二鳥。ついてる。今日の俺はついてる。 パチンコでは負けたがそれをチャラにしてくれるぐらいついてる。 時計を見ると、九時十分。 俺はすぐさま服を着替え、髪の毛をセットして、 空の財布をズボンに押し入れた。 自分の部屋の電気を消し、最後にもう一度、 髪の毛をセットし直し、親に朝と同じように「遊びに行ってくる」と 言い、家を飛び出していった。 予定時刻より早く、待ち合わせに着き、 駅の前で待つ事にした。 待ち合わせの時間になったが、 誰も来ない。誰も来ないと言うか周りに女の人はいるが、 正直、声をかけるのが怖くて来ているのかもわからない。 でも、これは自分がやりだした事だと、 自分に鞭を打ち、この駅の周りの人の顔を見ていく。 すると・・・・・・いた。写メと同じ人が。 しかも高そうでセクシーな服をきて。 近づいていき、声をかける。 「ハルミさんですか。」 「そうだけど、もしかして京谷君。」 「はい、そうです。」 「さっきからメール送ってるのに返事、返ってこないから、 すっぽかされたかと思った。」 「すいません。携帯、持ってないんで。」 「そうなんだ。とりあえず、ご飯でも食べに行く。」 「はい。」 はいと言ったのは良いものの、 金は持ってないし、お腹も減ってない。 とりあえず、ハルミさんの後をついていくことにした。 すると高そうなお寿司屋に入っていく。 入る前に解かった。ここの寿司は確実に回ってない事が。 先に入ったハルミさんが出てくる。 「どうしたの。」 「すいません。俺、まったく金持ってなくて。」 「そんなこと気にしなくていいよ。 私が全部おごってあげるから。」 「本当ですか。」 「うん。だから早く。」 「はい。」 腕を掴まれ、誘われるままに、店に入り、 カウンターの席に座る。 ハルミさんは俺の顔を見つめながら、 「どれにする。」 なんて聞いてくる。 正直、写メはそれほどタイプじゃなかったが、 こう見つめられてるだけで惚れている自分がいた。 俺はメニューを渡されるが、 何を頼んで良いのかまったくわからない。 「お任せします。」 とハルミさんにメニューを渡し、 お絞りで何度も何度も手を拭いていた。 「じゃ、大将にお任せするわ。」 と言い、メニュー表を返し、 俺を笑顔で眺める。 その後、大トロや中トロなどの高いネタばっかりで、 食べたことのないネタも次々に出てきた。 ご飯を食べて、お腹は減ってないはずなのに、 おいしくて次々に食べてしまった。 お寿司を食べ終わり、店を先に出る。 後からハルミさんが出てきた。 「本当におごってもらってよかったんですか。」 「いいよ。たいした額じゃないし。」 「ありがとうございます。」 「じゃ、休憩もかねてホテルに行きましょうか。」 「はい。」 促されるままに、ホテルに行き、 休憩して、やる事をやってしまった。 感想、眼をつぶっていて何をされていたのかわからないが、 とにかく気持ちよかったことだけは覚えている。 それでいつの間にか寝てしまっていた。 起きたのが朝の五時。 ハルミさんを起し、シャワーを浴び、 ホテルを出た。 「気持ちよかったわ。じゃこれはお礼。」 と言いながらハルミさんはバックからお金を出し、 俺にそのまま手渡す。 「いいんですか。」 「お礼だから受け取って。じゃ、また。 貴方ならいつでも会ってあげるから。」 そう言い、ハルミさんは手を振りながら、 帰っていった。 とりあえず俺も急いで家に帰った。 これ以上遅れると、母と父が起きてしまうから。 家に着き、静かにドアを開け、 足音を消しながら自分の部屋に戻る。 部屋に戻り、電気をつけ、 まず、渡されたお金を数える。 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、 11、12、13、14、15、16、17、18、19、20。 確かに二十万。それが俺の物。 あまりのうれしさに部屋の中に二十万をばら撒いた。 でも、何故だかその喜びはすぐに冷めてしまった。 椅子に座り、ノートを広げる。 そして性欲の分類に黒のマジックペンでバツをする。 そう俺は「何か」をまた見つけられなかった。 確かに気持ちよかったが、俺が見つけたいものとは違う。 夢中になれるものではない。 俺はノートをめくり、次の分類を見る。 そこには犯罪の二文字があった。 俺にはもうこの分類しか残っていない。 とうとう俺も犯罪に手を染めてしまうのかと思うと、 当たり前だが以前のようなやる気が起こらない。 とりあえず、ノートに鉛筆を挟んで閉じ、 ばら撒いた二十万を拾い集め、机の中に仕舞い、 ベットに入り、眠りについた。 この日は自然と覚めた。 いつも通りに朝ごはんを食べに行き、服を着替え、 椅子に座る。 ノートを開け、考え込む。 これをしてしまったら、俺は捕まるかもしれない。 そうなれば、夢中になれるものなんてどうでもよくなる。 でも、これをしなかったら、後悔すかもしれない。 俺の目標、この冬に夢中になれる「何か」を見つける。 18、最後の冬に夢中になれるものを探す。 でも、これをして捕まると、18の最後の冬とか関係なくなる。 頭を抱えながら悩んでいると、突然、部屋のドアが開いた。 ドアを開け、母がいきなり入ってきた。 「何。」 「ちょっと、一緒に来て。そのままで良いから。」 「だから何。」 と言いながら、母に手を引っ張られ、家を出る。 家の前にはタクシーが止まっていた。 母は俺をタクシーに押し込め、 それからしゃべらず、黙ったまま俺をどこかへ連れ出した。 着いたのは近くの病院。 俺はまた母に手を引っ張られ、病院の診察室に連れて行かれた。 そこには偉そうに椅子に座る医者がいた。 「予約していた、塚本です。」 「はい。解かりました。」 と言いながら医者が俺の体を検査していく。 すると医者は電話をしだした。 そしてすぐに電話を切り、俺とまた向き合う。 「体に異常はありませんね。たぶん精神的なものでしょ。」 「精神的なものですか。」 「そうです。体は健康体そのものですから。」 「でも、最近何か苦しそうなんです。」 俺は黙って、母と医師にやり取りを聞いていた。 俺は自分でもわかっている。病気かそうじゃないかくらい。 でも、母の心配する姿は、正直うれしかった。 今までそれほど感じたことのない母の気持ちがうれしかった。 医者も腕を組み、考え込む。 そしていくつかの書類を眺め、口を開いた。 医者の口から出た言葉に驚いたのは母も俺も同じだった。 医者は俺の人生、十八年間生きてきた人生、 「何か」を見つけるためにがんばってきた五日間を、 たった一言で台無しにした。 「これは・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・”鬱”ですね。」 「”鬱”ですか。」 「そうです。最近は若い子にも多いんですよ。」 「そうですか。」 「本当ですか。」 つい信じられずに口を挟む。 「本当だよ君と似たような子も大勢いるし。 それに君、最近、「何か」に夢中になったり、 楽しく感じるものがないでしょ。」 「楽しく感じるものはありますが、 夢中になれるものないです。」 「うーん。軽い鬱ですね。簡単に言えば、 鬱になりかけてる状態と言っていいでしょ。」 「直す方法はあるんですか。」 「薬があるのでそれを出しときます。 それでもよくならないときはまた着てください。」 「わかりました。ありがとうございます。」 母と一緒に病室を出る。 「母さん、なんで俺を病院に。」 「最近の京谷、おかしかったから。」 「母さんにはわかるんだ。」 「何となくだけどね。」 そして薬をもらい、お金を払って、 また無言でタクシーに乗る。 俺はタクシーに乗ってる間もまだ自分が”鬱”だと言う事を 信じられず自分の中で否定し続ける。 家に帰り、ドアを開け、自室に戻る。 ベットに寝転り、眼を瞑る。 俺はそんなんじゃない。俺はそんなんじゃない。 と呪文でも唱えるかのように自分の中で呟き続ける。 俺が鬱だなんて。 信じられない気持ちで一杯だった。 そのまま寝転がったまま、寝る事も出来ずにいた。 夜になり夕食を食べる。 その食卓はいつもよりも明るくて、 母も父も俺を励ましていてくれている感じがした。 俺はいつもよりゆっくりと風呂に入って、 自分の部屋に戻ってきた。 椅子に座り、ノートを広げる。 俺は服を着替え、机の中からナイフを持ち、 家から静かに出て行った。 終わり。
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