ついにこの日が来た。 決して来てほしくない日。 俺は黒のスーツに身を包み、 家のドアをゆっくりと開けた。僕はどこにでもいる平凡で、今年二十歳を迎える男。 特技なんて持ってないし、 これといって趣味も持っていない。 今は短期大学を卒業して、内定をもらいのんびりとした日々を 久しぶりの実家で過ごしている。 大学に通っていた時は神戸の方に一人暮らしをしていた。 大学はデザイン専門の学校。 そんな大学に行く事になったのも、すべて父のせい。 小さい頃から絵を描くのが好きだった僕は、 父の言われるがままに美術を勉強していき、 いつしか好きだった絵が嫌いになるほどに絵を勉強していた。 そして何とか大学を無事に卒業したと思ったら、次は就職。 絵が嫌いになっていた僕は、 就職だけは絵と関係ない職業に就きたく何社も面接を受けに行った。 しかし、結果は見えている。もちろん雇ってもらえるわけがない。 仕舞いには、面接官から絵の勉強していたんだから、 そっちの仕事についた方がいいよと言われる始末。 仕方なく、イラストレイターという職業の面接を受けると、 一発採用。それで僕の就職活動は終わり。 結局、嫌いになった絵を描く仕事をすることになった。 それが決まったのもつかの間、父が肺がんで倒れ入院。 母に、電話越しに帰ってきてとなかれ、 帰ってきてのんびり家で過ごす日々。 父はというと、お見舞いに行くと元気で、 久しぶりだな、絵、頑張って描いてるかなんていうもんだから、 一回しかお見舞いには言っていない。 僕はそんな台詞を聞くために帰ってきたんじゃないというように 父とはそれ以来、あっていない。 それで今は、久しぶりに実家に帰ってきたので、 地元の友達と遊んだり、家でゴロゴロと過ごしている。 母は毎日のように父のお見舞いに行っている。 母にしたら、父の事をほっとけないらしい。 俺は今日も自分の部屋で見ていないテレビを、 つけっぱなしにしながら、漫画を熟読している所。 するといきなり携帯がなる。 漫画をベットにほおり投げ、 どこにいったかわからない携帯を探す。 携帯は枕の下から姿を現し、 早く電話に出ろと設定した着うたを流しながら、僕を急かす。 「もしもし。」 電話に出ると、電話越しに友達の楽しそうな声が聞こえる。 「もしもし、今日暇か。」 「何だよ。」 「かわいい女の子、ひっかけてさぁ。 これからカラオケ行く事になったんだけど、オマエも行くか。」 「もちろん。迎えに来てくれよ。」 「そう言うだろうと思って、今向かってる。準備しとけよ。」 「任せろ。」 そういい、電話を切り、急いで服を着替え、 出かける準備をする。 すると、今度は家の電話が鳴り出した。 でも、それを無視して急いで家を飛び出していく。 どうせ家にかかってくる電話といえば、 父に用事があるか、母に用事があるかの二つ。 僕にはまったく関係ない。 しかも、二人とも留守だし、 出たところでめんどくさい伝言を頼まれるだけ。 だから、無視して家を飛び出した。 家を出るとそこには友達の車が止まっており、 早く乗れよといわんばかりに手を振っている。 僕は走って、向かい車に乗ってカラオケへと向かった。 カラオケは最高に盛り上がった。 友達が連れてきた子はかわいかったし、 歌もめっちゃくちゃうまく、友達は調子に乗り、 車を運転するにもかかわらず、酒を飲み始めた。 それに負けじと僕も結構のお酒を飲んだ。 女の子は若干、引き気味だったけど、 僕と友達のテンションは最高。 向かうところ敵なしみたいなテンション。 カラオケで叫びまくり、喉がかれるほど歌いまくった。 店を出ると女の子たちは、 用事があるとか言い出して、歩いてどっかに行った。 そして、俺と友達は友達の車に乗り込んだ。 「大丈夫かぁ。オマエ、運転できんのかぁ。」 僕は酔いながらも、大丈夫か確認を取った。 「任せろぉ。俺を誰だと思ってやがる。」 「じゃ、出発しんこうぉ。」 と僕が言うと友達は勢いよくハンドルを切り、 左右の確認なしに道路に飛び出した。 結論から言えばそれは当然の結果なのかもしれない。 左から普通に走ってきた車と衝突。 友達は言うまでもないが、僕も即死。 その場で息を引き取った。 @@@@@@ 病院から特別に外出届をもらい、 苦しい体に鞭を打ち、病院から妻の車に乗り、自宅にかえる。 自宅に帰ると、人生で数回しか着たことのない、 黒のスーツがハンガーにかけられ、綺麗にクリーニングされていた。 自分ではもう着ることはないと思っていた。 この黒いスーツを見るのは自分の葬式が最後だと思っていた。 母さんが俺をせかす。 「あなた、早くお着替えにならないと。」 「あぁ、わかってるよ。」 そう答え、母さんに手伝ってもらいながら、 服を着替え、来てくださった方々にお礼を言う。 お経が始まった。 俺は体調も悪いので椅子に座り、 坊さんが唱える経に眼をつぶりながら、聞き入る。 長い経も終わり、最後の別れ。 息子との最後の別れ。 だが何故だか、別れると言う感じがしなかった。 息子の顔を見ると、微笑を浮かべている。 死んだはずの息子から聞こえた気がした。 悪いけど先に逝かせてもらうよと。 そうすると、急に自分の顔から一滴の涙がこぼれた。 それは堪える間もなくあっさりと流れてしまった。 そこから、涙が止まらない。 どんなに耐えようともしても涙はどんどん眼からあふれ出す。 俺が泣きじゃくっている間に息子は運ばれていった。 俺は一人、家に残り、入った事がない、 息子の部屋へと足を入れる。 そこにはたいしたものはなく、 いつでもまたアイツが帰ってきそうな感じがした。 END